(漏水と腐食を見逃す品質システム)−FDA査察から見た「目のつけどころとチェックポイント」

今回のWarning Letter(WL320-26-55)は、2026年3月26日に中国のHenan Lvyuan Pharmaceutical Co., Ltd.に対して発出されたもので、主にAPI製造に関するGMP違反が指摘されています。URL:https://www.fda.gov/inspections-compliance-enforcement-and-criminal-investigations/warning-letters/henan-lvyuan-pharmaceutical-co-ltd-722497-03262026 (原文は英語ですが、ブラウザの翻訳機能で日本語でも読み取ることができます。)

指摘事項1では、設備の腐食や天井からの漏水、床面の水たまりといった、いわば「誰が見ても異常」と分かる状態が確認されています。そして興味深いのは、その後の企業の対応です。企業は補修後の写真を提示し、実施した是正措置について説明することで、「対応済み」であることを示そうとしました。しかしFDAは、その対応を十分とは評価しませんでした。

ここに、重要な示唆があるように感じます。私たちはつい、「写真=事実を正確に伝えるもの」と考えがちです。そして「直した状態を見せれば十分」と捉えてしまうこともあります。しかしFDAが見ているのは、写真そのものではなく、「その状態がなぜ起き(原因調査)、どこまで影響しているのか(影響評価)、どのように是正され(是正措置)、再発をどう防ぐのか(予防:予防保守を含む管理・点検・異常検知・判断の仕組み)」という一連の論理です。

ここで、査察官の思考プロセスを私なりに推論してみました。
腐食・漏水がある → それはいつから発生していたのか → 他の設備やエリアにも同様の問題はないか → 製品・用水・環境への影響評価は実施されたか → それらを未然に防ぐ仕組みは機能していたか

この流れを見ると、「写真で修理完了を示す」という行為は、査察官の関心のほんの一部にしか応えていないことが分かります。「なぜその状態を許してしまったのか」という構造や品質システムの問題に答えていない限り、FDAの評価を変えることは難しいのかもしれません。

私たちの現場を顧みたとき、「対応した事実を示す」ことに意識が集中し、「なぜ起きたのか」「どこまで広がっているのか」「再発をどう防ぐのか」という問いへの答えが後回しになっている場面はないでしょうか。写真は確かに分かりやすい証拠ですが、それを添えることで是正措置の説明が十分になされたと錯覚してしまうとしたら、それ自体が一つのリスクなのかもしれません。