「AIに任せたGMP文書は、誰が保証するのか」− FDA査察から見た目のつけどころとチェックポイント
今回取り上げるのは、アメリカのPurolea Cosmetics Labに対して、2026年4月2日付で発出されたWarning Letter(MARCS-CMS 722591)です。対象は、ホメオパシー医薬品を含む医薬品製造施設ですが、「AIの活用」に関する「今後のGMP実務にも関係する論点」だったのでレビューしました。原文はFDAのウェブサイト(https://www.fda.gov/inspections-compliance-enforcement-and-criminal-investigations/warning-letters/purolea-cosmetics-lab-722591-04022026)で公開されています。(ブラウザの翻訳機能を使って日本語で読めます。)
このWarning Letterでは、不衛生な製造環境、微生物試験を行わないままの出荷、原料試験や供給業者COAの信頼性を確立していないなどが指摘されています。その中で特に目を引くのが、AIを用いて製品規格、手順書、製造管理記録を作成していた点です。
FDAは、AIを文書作成の補助として使うことは否定していません。しかし、AIが作成した文書を、品質部門の権限を有する担当者が正確性とCGMP適合性の観点から確認していなければ、CGMP(21 CFR 211.22(c))の問題になるとみなしています。
日本の現場でも、SOPやその他の計画書・指図書・報告書案をAIに作らせる場面は、今後ますます増えると思います。GMP省令やPIC/S GMPの考え方に照らしても、文書が「存在する」ことと、その内容が科学的・実務的に妥当であることとは別の問題です。FDAが見ているのは、便利なツールの使用そのものではなく、最終的な判断責任が品質システムの中で維持されているかどうかです。
ここで、査察官の思考プロセスを推論してみました。
AIでSOPや規格を作成している
→ その内容を誰が確認し、承認したのか
→ プロセスバリデーションなど重要要件が抜けていないか
→ 抜けていた場合、それを検出する仕組みはあるのか
→ 結局、品質部門は品質監督として機能していたのか
この指摘の本質は、「AIを使ったから悪い」という話ではないと思います。AIの出力を検証せず、そのままGMP上の根拠として扱ってしまう構造が問題なのです。FDAのAnnual Product Reviewでも、コンピュータによる分析は有用であっても、最終的な評価と判断は人が行うべきである、という考え方が以前から示されています。今回の事例は、その考え方がAI時代に入り、より現実的なリスクとして現れたものかもしれません。
AIは、これからのGMP業務を助ける強力な道具になると思います。ただし、「AIが言わなかったから知らなかった」では品質システムは守れません。私たちのSOP、是正措置、年次製品照査、バリデーションの判断で、「最後に人が何を確認し、何を保証しているのか」… この問いを、今のうちに見直しておく必要があるのかもしれません。
最後に、このWarning Letterに記載されている一部をここに載せておきます。
“Specifically, you used AI to create drug product specifications, procedures, and master production or control records to be in compliance with FDA requirements."
“Overreliance on artificial intelligence for your drug manufacturing operations was also documented during the inspection. For example, the FDA investigators found that you had not conducted process validation prior to distribution of your drug products, as required under 21 CFR 211.100, and informed you as such. You replied that you were not aware of the legal requirement, as the AI agent you used (b)(4), never told you it was required.
… If you plan to resume drug production, and use AI to help with CGMP activities, such as development of procedures and specifications, any output or recommendations from an AI agent must be reviewed and cleared by an authorized human representative of your firm’s QU in accordance with section 501(a)(2)(B) of the FD&C Act. See also 21 CFR 211.22; 21 CFR 211.100."

