「API製造用水のエンドトキシン管理」 − FDA査察から見た目のつけどころとチェックポイント

今回紹介するWarning Letterは、2026年5月1日付でHarbin Jixianglong Biotech Co., Ltd.(中国)に発行されたものです。この会社 は、GLP-1受容体作動薬のAPI(原薬)、セマグルチド、チルゼパチドなどを製造し、米国市場へ輸出していました。Warning Letterの全文は、以下のURLから確認できます。また、ブラウザの翻訳機能を使えば、日本語で読むことができます。
https://www.fda.gov/inspections-compliance-enforcement-and-criminal-investigations/warning-letters/harbin-jixianglong-biotech-co-ltd-723330-05012026

このブログで取り上げるのは、指摘事項の4番目の「製造用水の微生物とエンドトキシンの管理」です。当該APIは、無菌注射剤の原料に使用することを意図した非無菌APIです。しかし、製造工程で使用していた水については、有害微生物が存在しないことを確認しておらず、エンドトキシンの試験も実施されていませんでした。さらに、水を手作業で運搬・保管していた工程では、サンプリングも微生物試験も行っていなかったと記録されています。

FDAがこの企業に求めたのは、単なる「エンドトキシン試験の実施」ではありませんでした。アラートリミット・アクションリミットの設定、試験方法の確立、モニタリング頻度の規定、そして水システムの図面への全サンプリングポイントの明記ーこの四点をひとつのパッケージとして要求しています。加えて、水系統以外にもエンドトキシン汚染につながる可能性がある製造上の要素(原材料、保持時間、設備の品質など)の特定と評価も求めていました。

なぜサンプリングポイントと頻度がこれほど重要視されるのでしょうか。それは、FDA査察でICH Q7(セクション4.3)を水の品質管理の基本的な根拠として参照するからです。つい筆が滑りましたが、誤解しないように補足する必要があります。FDAは、査察官には観察事項に対してICH Q7を引用しないように伝えています。それは、ICH Q7がGuidelineであり、Regulationではないからです。ただし、FDAはAPIの査察にはICH Q7を参照するように査察官に伝えています。すこし、ややこしいですね。ですから、この論理展開を省いてしまうと、つい「FDA査察はICH Q7を根拠にしている」と、筆を滑らしてしまうわけです。

閑話休題。また、USP <1231>(Water for Pharmaceutical Purposes)は、水システムのモニタリングにおいて「どこで・何を・どのくらいの頻度で」採取するかを科学的に設計することを示しています。業界の一般的な慣行では、貯水タンク・循環ループのリターン部・使用点のそれぞれから採取するのが基本です。特に「デッドレッグ」はバイオフィルムが形成されやすく、意図的なサンプリングポイントの設計なしには見落とされ続けます。FDAが図面への全ポイントの明記を求めるのは、「どこを見ていないか」を可視化させるためです。図面に落としてはじめて、設計上の盲点が浮き彫りになるからです。

ここで、「USP」、「デッドレッグ」、「使用点」は、その位置づけや解釈を詳しく補足をしておきたいのですが、長文になるので避けたいと思います。

ここまで来たところで、査察官の思考プロセスを推論してみました。
APIは無菌注射剤の原料である →
製造に使用する水のエンドトキシン試験をしていない →
それでは、モニタリングの頻度や採取箇所はどう管理しているのか →
図面も試験記録もない →
水の品質管理は設計レベルで存在していない →
リスク評価そのものが行われていない構造的な欠落である

この思考の流れが示すのは、「うっかり試験を忘れた」という話ではないということです。試験をしていない、記録がない、サンプリングポイントが決まっていないーこれらは個別のミスではなく、水システムに対するリスクが設計に組み込まれていなかったことを物語っています。アラートリミットとアクションリミットの根拠が文書化されていなければ、異常が発生しても「何と比較して異常なのか」も判断できません。こうした状態は、問題が再発しやすい構造といえます。

FDAの視点は「意図した品質を達成できる設計になっているか」という問いに向けられています。「試験している」という事実よりも、「なぜその箇所で、なぜその頻度で、なぜその限度で、これらは何を根拠にしているのか」を問うのがFDA的なアプローチです。「運用でカバーする」という発想が根付いている現場では、この問いへの答えが用意されていないことがあるかもしれません。

水システムの図面には、すべてのサンプリングポイントが明記されているでしょうか。アラートリミットとアクションリミットの設定根拠は文書化されているでしょうか。そして、モニタリングの頻度はリスクに基づいて設計されているでしょうか。この三つの問いが、今回の指摘の本質に近いように感じます。

査察官は図面だけで、システムの構造的欠陥を発見することができます。

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