「品質部門は、品質を見ていたか」―FDA査察から見た「目のつけどころとチェックポイント」
今回取り上げるのは、FDAが2026年7月24日付でDabur India Limited(インド)に対して発出したWarning Letterです。この会社は、米国向けOTC医薬品を製造する製造所です。原文は以下のURLに掲載されています。また、ブラウザの翻訳機能を使用すれば日本語で読むことができます。
https://www.fda.gov/inspections-compliance-enforcement-and-criminal-investigations/warning-letters/dabur-india-limited-728828-07242026
今回注目したいのは、21 CFR 211.22「Quality Control Unit(品質部門)の責任」です。
品質部門の役割というと、「記録をレビューして出荷判定をする部署」と考えられがちです。しかし、FDAが今回問題にしたのは、もっと根本にある「品質システム全体を監督する責任」でした。
査察では、品質部門が見逃していた問題が次々に明らかになっています。例えば、このWarning Letterの元になったFDA-483 *を見ると、微生物試験では長期間にわたり結果がほぼすべて「<10」と記録されていましたが、査察官が実際に培地を確認すると、菌数が数え切れない(TNTC)のプレートが複数見つかりました。
(* https://www.fda.gov/drugs/cder-foia-electronic-reading-room/dabur-india-limited-01162026?utm_source=chatgpt.com)
また査察では、試験に使用した培地の所在が分からないものや、サンプル受付記録(sample login records)が見当たらないもの、試験データに不自然な繰り返しパターンが見られるものも確認されました。こうした査察時の観察内容を見ていると、その後のWarning Letterでデータインテグリティの問題が取り上げられた理由も、何となく見えてくるような気がします。
それにもかかわらず、品質部門は5年間にわたり微生物試験でOOSが一度も発生していない状況について疑問を持たなかったようです。データインテグリティ上の問題も把握していませんでした。さらに、査察中には設備のログブックを書き換えて、多品目製造の事実を隠そうとした形跡まで確認されています。
おっと、横道にそれてしまいましたが、このような査察の背景を持つ会社だと思って、§211.22 に戻ってみましょう。
日本のGMP省令でも、第4条「品質部門の業務」では、品質部門が製造管理・品質管理を適切に監督することが求められています。またPIC/S GMPでも、品質部門は品質システム全体が有効に機能することを保証する立場にあります。品質部門が「試験結果を確認する部署」で終わってしまうと、このような問題は見逃されやすくなるかもしれません。
そこで、査察官がどのように感じ、どのようなプロセスでこの指摘に至ったのか、目のつけどころとチェックポイントを私なりに推論してみました。
微生物試験結果が何年も「異常なし」
↓
実際の培地を確認すると記録と一致しない
↓
サンプル受付記録や培地管理記録が存在しない
↓
データの規則性や記録改ざんの痕跡が見つかる
↓
個々の担当者のミスではなく、品質部門が異常を検知していないことに気づく
↓
品質システム全体が監督機能を失っていると判断する
この一連の流れから見えてくるのは、「データが間違っていた」ことではなく、「誰もその異常に気付かなかった」ことです。品質部門が本来持つべき監督機能が働いていれば、「5年間OOSゼロ」という結果そのものに違和感を覚えるものではありませんか。
私はWarning Letterを読んでいて、「品質部門は何をレビューしたのだろう」と考えてしまいました。記録はレビューしていたのでしょう。しかし、その背景にある工程やデータの流れまでは見ていなかったのではないでしょうか。
品質部門の仕事は、書類に判を押すことではなく、「この結果は本当に現場を表しているのか」と問い続けることなのかもしれません。少し考えてみませんか。品質部門は記録をレビューしていますか。それとも、品質システムそのものをレビューしているでしょうか。

