「教育しましたでは終わらない」― FDA査察から見た目のつけどころとチェックポイント
今回取り上げるのは前回と同じ、FDAが2026年8月13日付でEugia Pharma Specialities Limited(インド)に対して発出したWarning Letterです。原文は以下のFDAサイトに掲載されています。また、ブラウザの翻訳機能を使用すれば日本語で読むことができます。
https://www.fda.gov/inspections-compliance-enforcement-and-criminal-investigations/warning-letters/eugia-pharma-specialities-limited-730469-08132026
この査察は、FDA-483も公開されています。今回注目したいのは、違反項目2、21 CFR 211.113(b)「無菌医薬品の微生物汚染防止のための手順を確立し、全ての無菌および滅菌工程をバリデートすること」に関する指摘です。
査察官は、無菌充てんラインのセットアップや製造を観察して、不適切な無菌操作を確認しました。FDA-483 を併せて見た具体的内容については、前回のブログに記載しました。
今回は、もう一つの重要な観察事項である、メディアフィルを見てみます。実際の製造で行われていた重要な無菌接続が、メディアフィル(プロセスシミュレーション)の再適格性評価(requalification:ここでいう適格性評価は、設備ではなく無菌工程のプロセスシミュレーションの再評価を意味します)に含まれていませんでした。つまり、実際の製造では行っていましたが、その介入を含めた状態で無菌工程が適切に機能することを確認していなかったということです。
注:FDAはメディアフィル(aseptic process simulation)について“qualification”“requalification”という表現を使いますが、これは設備の適格性評価という意味ではなく、無菌工程を微生物学的に評価するプロセスシミュレーションです。FDAは、APSはprocess validationそのものではなく、その一部として位置づけています。
この会社は、介入後の消毒手順の変更、無菌接続コネクタの使用、作業者への教育訓練、メディアフィルの更新などを回答しました。しかしFDAは、それだけでは不十分としました。設備設計の問題を十分認識しておらず、作業方法の再設計にも取り組んでいないと見ています。
ここは、私たちの現場でも考えてみたいところです。無菌操作の不備が見つかると、「作業者を再教育しました」「手順書を改訂しました」というCAPAになりやすいものです。しかしPIC/S GMP Annex 1は、無菌操作を作業者の注意力だけに委ねる考えではありません。介入はリスクを最小化するように設計し、可能な場合にはエンジニアリング的に作業者の侵入を減らすこと、さらに実際の無菌操作を専門知識のある職員が定期的に観察し、不適切な行動を見つけたら是正することを求めています。メディアフィルについても、通常製造で行われる介入とワーストケースを実際の頻度に近い形で含めることを求めています。
そこで、査察官がどのようなプロセスでこの指摘に至ったのか、目のつけどころとチェックポイントを私なりに推論してみました。
実際の無菌操作を観察する
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作業者が無菌部分に触れる、身体を乗り出すなどの行動に気づく
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CCTV(監視カメラの映像)で製造時の作業を確認する
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実際の介入方法を手順書やスモークスタディと比較する
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手順やスモークスタディと異なる介入が行われていることを確認する
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その介入はメディアフィルで評価しているかを確認する
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その介入がメディアフィルに含まれていないことが分かる
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なぜ、この状態が日常的に続いていたのかを調べる
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作業者の教育の他にも、手順、設備・作業性、製造管理者の監督、品質部門の品質監督まで範囲を広げて確認する
この一連の流れから、問題の本質は「ある作業者の無菌操作が悪かった」というだけではないように思われます。実際の製造がどのように行われているかを継続して見て、手順やバリデートされた状態とのズレを見つける監督システムの弱さが浮かび上がってきます。
FDAは、再教育だけではなく、過去の実作業のレビュー、今後の日常的な観察、さらに製造部門および品質部門による監督のシステムを示すよう求めています。FDAが見ているのは、作業者一人ひとりの技量だけではなさそうです。
この会社では似たような無菌操作や無菌充てんライン設計の問題が、別の製造所でも見られ、FDAから指摘されていました。FDAは、この会社に対して「製造部門の管理層による監督の不備を評価するとともに、すべてのバッチについて現場で有効かつ日常的な監督を行うための具体的な改善策を示すこと」を求めています。(Deficiencies in production management oversight, and identification of specific improvements to ensure effective and routine supervisory oversight for all batches)
「無菌操作を守ってください」と教育することは大切です。しかし、その作業者が普段どのような操作をしているのか、私たちは本当に見ているでしょうか。そして、手順と違う行動を見つけたら、本人の再教育だけでなく、なぜその行動が必要になったのか、設備や作業方法、監督の仕組みまでさかのぼって考えているでしょうか。
無菌操作を守らせる仕組みは、教育訓練だけではないこと。FDAはそのように見ていたのかもしれませんね。

