「RABSは、本当にRABSか」― FDA査察から見た目のつけどころとチェックポイント

今回取り上げるのは、FDAが2026年8月13日付でEugia Pharma Specialities Limited(インド)に対して発出したWarning Letterです。この会社は、無菌注射剤を製造する製造所です。製品名などはWarning Letterでは黒塗りになっています。原文は以下のFDAサイトに掲載されています。また、ブラウザの翻訳機能を使用すれば日本語で読むことができます。
https://www.fda.gov/inspections-compliance-enforcement-and-criminal-investigations/warning-letters/eugia-pharma-specialities-limited-730469-08132026

この査察は2026年2月16日から27日に行われ、FDA-483も公開されています。今回注目したいのは、21 CFR 211.42(c)(10)「無菌操作区域」に関する指摘です。

この会社には、RABSとして設計された無菌充填ラインがあります。しかしFDAは、ラインの一部にはRABSとして必要な設計の要素が不十分で、周囲の環境との物理的な分離、機器の配置、作業性などに問題があると指摘しました。つまり、「RABSと呼んでいる設備ですが、ライン全体を見るとRABSとして十分に機能していない」ということです。

実際、作業者はバッチ製造中に無菌ラインの一部へ頻繁に身体を入れて作業することが認められていました。また、介入時には、ISO 5(Class 100)の一方向気流が乱れ、開口バイアルを十分保護できない状況でした。さらにISO 5区域と周囲のISO 7(Class 10000)区域との物理的な分離も不十分でした。FDAは、こうした設計上の欠陥によって、無菌状態を維持する能力が損なわれていると判断しました。

公開されたFDA-483を見ると、もう少し現場の様子が見えてきます。査察官は、作業者のガウンの一部がGrade A区域内の露出部に接触し、その後その部分が十分に消毒されていない状態や、スモークスタディや手順書と異なる介入のしかた、さらにCCTVの映像から、作業者が無菌接続部の上に身体を乗り出すような作業(開放された移送ホースの上に頭や肩を乗り出して無菌接続を行っていた)を確認しています。

ここで注意したいのは、「それなら作業者を教育して、介入方法を改めればよい」と考えてしまうことです。会社の回答にも、介入回数を減らす、介入後に消毒する、落下したバイアルを滅菌済み鉗子で取り除くなどの改善策がありました。しかしFDAは、それだけでは十分ではないとしました。現在のRABSの設計そのものの問題などに十分対応していないと述べています。

PIC/S GMP Annex 1を読むと、この考え方はよく分かると思います。RABSやアイソレータは、Grade Aの環境を周囲の環境から「分離する」ことで製品を保護する技術です。また、人の直接介入を設備、工程、手順の設計によって最小化することが求められています。介入そのものについても、気流や重要表面、製品への影響を考慮して設計し、可能であれば工学的な方法で作業者の侵入を減らす考え方を示しています。

私たちは「RABSを導入しているから無菌保証レベルは高い」と設備の名称だけで安心してしまうことがあるかもしれません。しかし、RABSを設置していればよいというものではありません。RABSはGrade A環境と周囲を分離し、「人の直接介入を最小限にする」ためのものです。ひとたび人が直接介入したら、そこから先は無菌操作の世界です。

査察官は現場で何を見て、どのように感じ、どのようなプロセスでこの指摘に至ったのか、「目のつけどころとチェックポイント」を私なりに推論してみました。

実際の無菌操作を観察する

作業者が頻繁にラインへ介入していることに気づく

介入時の身体の位置、手の動き、開口バイアルとの位置関係を見る

CCTVで実際の製造時の介入を確認する

スモークスタディと実際の作業を比較する

一方向気流が作業者や設備によって乱されていないか確認する

なぜ、このような危険な介入が必要なのかを考える

作業者の無菌操作、機器配置、作業性、バリアの構造を見る

これは、作業者が注意すれば防げる問題ではない

頻繁な人の介入を前提とした設備設計に行き着く

この流れから、問題の本質は「作業者が無菌操作を守らなかった」ということだけではなく、そのような作業を繰り返さなければ製造できない「設備と工程の設計」にあったように思われます。

FDAのアセプティックプロセスのガイダンスにも、設備設計によって作業者による介入の回数と複雑さを減らすという考え方が示されています。今回のWarning Letterは、その考え方を実際の査察でどう見るのかを示した事例かもしれません。

「作業者が手順を守らなかった」と聞くと、教育訓練や手順改訂に目が向きます。しかし、その作業者は、なぜそこに身体を入れなければならなかったのでしょうか。なぜ頻繁に介入しなければならなかったのでしょうか。

無菌操作の問題が見つかったとき、私たちは「人の問題」で終わらせず、そのようにさせている設備や工程の設計まで遡って見ているでしょうか。

RABSという名前ではなく、本当に人と製品を分離する設計になっているか。今回FDAが見ていたのは、そこかもしれません。