承認前査察のCompliance Program 7346.832ー2026年8月10日発効

FDAは2026年8月10日、Compliance Program 7346.832「PAI: Preapproval Inspections」の改訂版を発効しました。これまでの4つの査察目的は変わりませんが、さらに査察の必要性を迅速に判断し、査察を効率的に実施するため、リスクベース戦略を強化しています。

コンプライアンス・プログラム7346.832は、以下のURLからダウンロードできます。機械翻訳で日本語にして読み、意味が通じないところは原文の英語で確認すると、効率よくかつ正しく解釈できると思います。
URL: https://www.fda.gov/media/193382/download?attachment

今回はどこが変わったのか、新たに注目すべきポイントを整理してみます。

1.PAIが必要か否かを「申請全体についての累積的なリスクアセスメント」で判断します。
最新版は、「製品および製造工程・施設のリスク」と「申請情報の正確性・信頼性」の2つの側面から評価し、申請全体の累積的リスクに基づいてPAIの要否を判断するようになります。施設状態の評価、代替手段の利用、PAI要否の意思決定フロー図(Flow Diagram: Risk-Based Inspection Determination)も新たに掲載しています。

2.目的の1つである「商業生産への準備状況」を5つのサブ目的で構成しました。
PAIの主要目的は、「商業生産への準備状況」「申請内容との一致」「データインテグリティ監査」「医薬品開発における品質へのコミットメント」です。その中で、「商業生産への準備状況」が5つのサブ目的に分割されました。即ち、1a(製造・試験能力)と1e(商業工程・製造記録の実現可能性)は全てのPAIで実施され、1b(サンプリングと試験)、1c(施設と装置)、1d(バッチの出荷判定・変更マネジメント・調査)は申請の審査や過去の査察等で特定されたリスクに応じて実施されます。

3.目的2と目的3は全PAIで、目的4は条件付きで実施します。
申請内容との一致(目的2)とデータインテグリティの監査(目的3)は、すべてのPAIでカバーされます。医薬品開発における品質への取り組み(目的4)は、初回PAI、リスクに基づくその後の定期PAI、または品質システム、経営陣、会社構造に重大な変更があった場合に実施されます。

4.代替的手段がリスクベース戦略の中で、より明確に位置づけられました。
FDAは、MRA等を通じた外国規制当局の査察報告、FD&C Act 704(a)(4)に基づく記録の請求、Remote Interactive Evaluationなどを、PAIの前または場合によってはPAIに代えて利用することができます。最新版では代替的手段が独立項目となりました。会社にとっては、現地査察が行われない場合でも、提出記録や遠隔評価だけで施設の準備状況・適合性が判断される可能性があることに注意が必要だと思われます。

5.FDA-483 回答の提出とrecommendationの流れが変更されます。
PAIのみの場合、施設はFDA-483 への電子回答と裏付け資料をCDERのOPMAへ提出する運用になりました。査察結果(あればFDA-483 とinitial field recommendationも)は終了後2営業日以内にPAMへ連絡されます。OPMAが申請の文脈で評価します。PAMができるだけ早く(少なくとも20営業日以内)にrecommendationを入力し、OPMA施設評価者が最終的な承認可/保留推奨を行うという責任分担も明確化されています。

今回の改訂は、PAI対策を「査察当日の対応」だけで考えることの限界を示しています。申請審査、過去査察、遠隔評価、品質システムの変更履歴が一つのリスク判断に統合されるためです。

そこで、少なくとも次の事項は、会社が申請前から確認しておく必要があると思います。
• 申請書の記載と、現場の工程・設備・原材料供給者・試験方法が一致していること。
• 開発段階から商業生産への変更、逸脱、傾向分析が十分に評価・文書化されていること。
• 商業工程と製造指図記録が実行可能で、科学的・客観的に正当化されていること。
• 原データから申請資料までの完全性・正確性・追跡可能性を示せること。
• 704(a)(4)記録請求や遠隔評価に、短期間で体系的に回答できること。
• 変更マネジメントシステムがICH Q12のエスタブリッシュトコンディション(EC: established conditions)、製品のライフサイクルマネジメント(PLCM: product lifecycle management)文書または申請していれば同等性評価プロトコル(comparability protocols)と整合していること。

このようにまとめてみると、最新版はどの施設を査察するか、各目的をどの条件・深度で実施するか、代替的手段をどう組み込むか、そして誰が最終判断をするかを、リスクベースの枠組みにした点が特徴的です。

会社に求められるのは、査察直前の「準備」ではなく、申請内容、製造現場、品質システム、データ、変更マネジメントが普段から整合していることを確実にすることではないでしょうか。