「バリデーションの先送り」― FDA査察から見た目のつけどころとチェックポイント

2026年5月4日に発出されたIDO Pharm Co., Ltd.(韓国)へのWarning Letter(MARCS-CMS 723449)には、三件の違反が記載されています。今回はそのうち最初の指摘、21 CFR 211.100(a)に絞って考えてみたいと思います。この会社は、OTC医薬品を製造し米国へ輸出しています。Warning Letter本文はFDA公式サイト(https://www.fda.gov/inspections-compliance-enforcement-and-criminal-investigations/warning-letters/ido-pharm-co-ltd-723449-05042026)で公開されており、ブラウザの翻訳機能を使用して日本語で読むことができます。

21 CFR 211.100(a)は、製品の同一性・含量・品質・純度を保証するように「デザイン」された製造・工程管理の手順書を求めています。今回の査察では、二つの問題が確認されました。一つは製薬用水システムの管理手順が存在しなかったこと。この「デザイン」云々をざっくりいうと、「バリデーション」して製造管理手順書を完成させなさいということです。

FDA査察官は、査察の現場で水が滞留しているホースや、昆虫と思われる異物がタンク内に浮かんでいるのを目撃しています。そして、もう一つがバリデーション、すなわち医薬品のプロセスバリデーションおよび洗浄バリデーションが行われていないことを確認しました。この会社は「2026年4月の施設移転に合わせて、7月までにバリデーションを実施する予定」であると回答しました。しかし、FDAはこれを「不十分」と判断したのです。移転までバリデーションされていない工程で何をするのか。製造を継続することへのリスク評価がなく、すでに米国市場に流通している製品への対応計画も示されていなかったからです。

日本の現場でも、「手順書はある」「定期的な点検はしている」という状態が、GMP対応として一定の安心感を生むことがあります。しかしFDAが問うのは、「その手順は現場の実態に即しているか」「工程が設計通りに機能していることを、科学的に示せるか」という点です。バリデーションは「いつかやる書類仕事」ではなく、「製造や工程管理の根拠を作る活動」として位置づけられています。だから、手順書を要件化した21 CFR 211.100(a)がバリデーションの不備の指摘で引用されるわけです。

PIC/S GMPも同様に、工程が意図した通りに再現可能であることをデータで実証しなさいとしています(ちょっと文章が乱暴ですが、そんなことを求めているわけです)。この考え方はもちろん、GMP省令においても求められています。ただ、「どこまでやれば十分か」という解釈の幅が、現場には残っているかもしれません。

ここで、査察官の思考プロセスを推論してみました。
製薬用水タンクの外観を確認
→ 浮遊異物・滞留水を目視で発見
→ 「この設備の管理手順はあるのか?」
→ 手順書が存在しないと分かった
→ 「では、バリデーションはされているのか?」
→ バリデーション自体が実施されていなかった
→ 「施設移転後に対応予定」という回答だった
→ 「現時点でのリスクはどう評価しているのか?」
→ リスク評価なし・流通品への対応計画なし
→ 工程管理体制が根本的に欠如している
このWarning Letterから、査察官が問うのは「一つの手順書の有無」ではなく、「製造や工程管理の根拠がどこにあるか」ということが読み取れます。

この事例の本質は、「バリデーションを後回しにする判断」が長期にわたって黙認された構造的リスクにあると感じます。誰か一人のミスではなく、「それでいい」という組織的な了解があって、こうした状況が生まれたのでしょう。FDAが回答を「不十分」とした理由はここにあるのではないでしょうか。

是正計画を立てたこと自体は評価の対象になりますが、「現在も同じ状態で製品を製造・出荷し続けていること」への科学的根拠を基にした対応が欠けていました。この「今、何をすべきか」という問いに答えられなかったことが、FDAの判断につながったと考えられます。

皆さんの現場では、「バリデーションの優先順位」はどのように決まっているでしょうか。「移転後にまとめて」「来年度の計画で」という状況があるとすれば、組織内でリスクとして認識されているかどうか、改めて問い直してみてもよいかもしれません。

―手順書は、バリデーションの結果をもって完成する―

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