「微生物試験のデータインテグリティ」— FDA査察から見た目のつけどころとチェックポイント

今回紹介するのは、Wizcure Pharmaa Private Limited(インド)に対して、2026年6月24日付で発出されたFDA Warning Letterです。同社は無菌OTC医薬品を製造しており、2025年12月3日から10日まで実施されたFDA査察で、複数の重大なCGMP違反を指摘されました。原文はFDAのウェブサイトで確認できます。ブラウザの翻訳機能を使えば、日本語で読むこともできます。

このWarning Letterで、とりわけ目を引くのが「試験記録の完全性」に関する指摘です(21 CFR 211.194(a))。

査察官は、試験室のインキュベーター内に、目視できる微生物の発育が認められる作業者モニタリング用の平板を確認しました。ところが翌日、同じ識別情報が記載された平板を確認すると、微生物の発育が認められなくなっていました。

微生物が一晩で消えたわけではありません。元の平板が廃棄され、新しい平板に差し替えられていたのです。管理者と微生物試験担当者の双方が、この差し替えを認めました。FDAは、この虚偽のデータによって、無菌充てんラインのISO 5環境の状態が実態とは異なる形で示されたと指摘しています。

さらに、環境モニタリング、作業者モニタリングなどのサンプルが、手順で定められたとおりに採取されていないことも明らかになりました。サンプルの培養や微生物数の記録にも信頼性がなく、試料の記述、識別、出納にも重大な不一致が認められました。

また、無菌試験などの微生物試験結果が、あらかじめ記入された試験記録用紙も発見されています。FDAは、こうした記録を「信頼できない文書化」を示すものと評価しました。

さらに重大なのは、査察中に実際に採取された環境モニタリング用平板をFDA査察官が継続して追跡したところ、ISO 5の工程環境から微生物汚染が複数回確認されたことです。

つまり、単に記録の記入方法が不適切だったのではありません。ISO 5の環境に実際に存在していた微生物汚染が、平板の差し替え、サンプルの未採取、不正確な菌数の記録、試験結果の事前の記入などによって、見えない状態にされていたのです。

では、査察官はどこに着目して問題を明らかにしたのでしょうか。

Warning Letterの記載から、少なくとも次のような確認が行われたことが分かります。

・試験記録だけでなく、インキュベーター内の平板を現物確認した
・同じ識別情報を持つ平板を翌日まで継続して追跡した
・平板の識別情報と、実際の微生物の発育状況を照合した
・サンプルが手順どおりに採取されているかを、製造記録や作業実態と照合した
・平板の培養、取り出し、菌数測定および記録の流れを確認した
・試験記録用紙への記入時期と、実際の試験実施時期との整合性を確認した
・管理者および微生物試験担当者への聞き取りを行った

この事例から学ぶべき重要な点は、微生物試験のデータインテグリティを確認するためには、完了した試験記録を照査するだけでは不十分だということです。

・サンプルは本当に採取されたのか
・採取した平板は、途中で差し替えられていないか
・定められた条件で培養されたのか
・すべての平板が回収され、出納が確認されているか
・菌数は、実際に観察した時点で記録されたのか
・規格外または好ましくない結果が、漏れなく報告されているか

品質部門には、記録の表面的な整合性だけでなく、「サンプルの採取から結果報告までの一連の流れ」が事実に基づいていることを確認する役割があります。

FDAは、この会社に対して、
・すべての微生物サンプルに固有の識別を付けること
・サンプルを取り扱った職員の署名を残すこと
・採取・運搬・培養・取り出しなどの日時を完全に記録すること
・平板をタイムスタンプ付きのデジタル写真で記録すること
などを求めました。

これは、微生物試料の「途切れがない管理」と「完全な出納」を確立するよう求めたものです。言い換えれば、平板を単なる試験材料としてではなく、最終結果を裏付ける原データとして管理することが求められています。

この事例の本質は、機器の不備でも、担当者による一時的な記録ミスでもありません。

「都合の悪いデータを見えなくすることができ、それを組織として防止・検出できなかった構造」にあるのではないでしょうか。

FDAが重大視したのは、データインテグリティ上の問題が単発の逸脱ではなく、平板の差し替え、サンプルの未採取、不適切な培養と菌数記録、試験結果の事前記入など、複数の業務にわたって繰り返されていたことです。

会社側も問題の「システム的な性質」を認めていました。しかしFDAは、組織的原因への対応が不十分であり、品質部門がデータインテグリティおよび無菌医薬品製造に関する逸脱を検出するために必要な資源と専門性を備えていることが示されていないと評価しました。

品質部門が問題を検出できなかった、あるいは検出しても止める権限や能力がなかったとすれば、それは品質システムそのものの機能不全です。

この事例は、手順書の改訂や再教育だけで解決できるレベルの問題ではありません。都合の悪い事実をデータや記録から見えなくする構造が、組織に定着していた可能性を示しています。求められているのは、個人への再教育ではなく、経営陣を含む組織全体による医薬品品質システムの立て直しです。