「顧客が要求しないから試験しない」- FDA査察から見る品質保証の空洞化 –

2026年3月、FDAはOTC医薬品製造業者OraLabs, Inc.にWarning Letterを発出しました。指摘された内容は、技術的に難解なものではありません。しかし、その背景にある「考え方」の問題は、日本の製薬企業のQA、QC担当者にとっても、考えさせる内容だと思います。

warning letterのURL:https://www.fda.gov/inspections-compliance-enforcement-and-criminal-investigations/warning-letters/oralabs-inc-720690-03112026

【「顧客が要求したときだけ」という論理の落とし穴】
この会社は複数のOTC製品を、微生物学的試験を実施しないまま出荷していました。その理由が、「顧客から要求されたときのみ試験を実施している」というものでした。さらに、自社製品の特性(水分活性が低い等)を根拠に「試験不要」という正当化メモ(a justification memo)を作成していました。
この論理、どこかで聞いたことはないですか。「うちの製品はこういう特性だから」「今まで問題になったことがないから」、現場でそんな話が出てこないかと、ふと気になります。

【GMP省令・PIC/S GMPの立場から考える】
GMP省令もPIC/S GMPも基本原則は、出荷可否の判定に必要な試験の実施を「製造業者の責任」として定めています。顧客が要求するかどうかは、その責任範囲に影響しません。
このWarning Letterでは、「FDAは契約業者を製造業者の延長とみなす」と改めて明記しています。品質確保の責任を契約者に転嫁することは認められません。この点は、外部委託業者を活用する日本企業にとっても、品質契約書の文言よりもはるかに重い意味を持ちます。

【査察官はデータの「矛盾」を見逃さない】
FDA査察官がまず目を向けるのは、試験記録の「パターン」です。試験が実施されていないロット、試験の頻度の偏り、特定顧客に対してのみ記録が存在するといった不均一性が見られれば、即座に「なぜ?」という問いが生まれます。
さらに興味深いのは、この会社が提出した正当化メモの中に、「製品中で微生物の増殖が認められた」というデータを含んでいた点です。「試験不要」という結論と、この会社のデータが矛盾していました。査察官は「データがリスクを示している」と会社内の矛盾を突いています。

【Warning Letterと判断した背景】
FDAがWarning Letterという強力な措置を選択した理由は、手順書の不備だけではありませんね。試験の省略・逸脱の無効化・不十分なCAPAという三つの問題が重なり、「品質部門の判断能力そのものが機能していない」と判断したからです。
試験をしなければ問題は見えません。「試験不要」の判断は品質保証を放棄したに等しい姿勢です。GMPの精神は、データに基づいて製品の品質を確認し、保証することにあります。自社の品質部門が「試験不要」という結論を出したとき、その根拠は本当に科学的に堅牢でしょうか。顧客の要求や製品特性を理由に試験を省く論理が、社内のどこかに根付いていないか、問い直す機会を与えてくれるWarning Letterです。

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