「再試験は品質を保証するのか」− FDA査察から見た目のつけどころとチェックポイント

FDAはカナダの製造所で無菌製剤(注射剤・スプレー製品等)を製造しているApotex Inc.(Warning Letter 320-26-12、MARCS-CMS 714137)に、2025年10月31日付でWarning Letterを発出しました。原文はFDAのウェブサイト(https://www.fda.gov/inspections-compliance-enforcement-and-criminal-investigations/warning-letters/apotex-inc-714137-10312025)で公開されています。ブラウザの翻訳機能を使って日本語で読むことができます。

今回注目したいのは、グローブのリーク試験に関する指摘事項です(21 CFR 211.113(b))。2023年9月から2025年4月にかけて、無菌製造ラインで使用するグローブのリーク試験で、繰り返しOOS(規格外)結果が出ていました。しかし、担当者は規格外の結果が出るたびに「根本原因を調査する」のではなく、「合格結果が出るまで再試験を繰り返す」という対応をしていました。さらに、6mmの亀裂が生じたグローブの使用や、設備表面の劣化、テープで塞いだ「除染時に使用するダミーカバー」なども確認されています。この問題は約18か月にわたって続いており、その間に根本原因が特定・是正されることはありませんでした。

GMP省令でも、PIC/S GMPの無菌製造ガイドライン(Annex 1)でも、グローブの完全性確認は無菌保証の基本的な管理要件として位置付けられています。ただ心理的安全性が低い組織では、現場で「最終的に合格したのだから問題ない」という結果主義の考え方が入り込みやすくなるかもしれません。FDAが問題視したのは、そのような考え方が表れた対応でした。リーク試験は「合格を確認する手続き」ではなく、「無菌性が担保されているかどうかを問う試験」です。OOS結果が出た時点で、無菌保証の前提は揺らいでいます。そこから目を逸らしたまま、再試験で合格を得たとしても、患者さんに届く製品のリスクは何も変わっていません。

ここで、査察官の思考プロセスを推論してみました。
「リーク試験のOOS記録がある」
→「その後の対応は?」
→「合格まで再試験が行われていた」
→「根本原因調査が行われていない」
→「6mmの亀裂が見つかった。実際に使用されていたのか」
→「18か月間、この運用が続いていた」
→「品質システムはこの状態を認識・是正できていなかったのでは?」

指摘の本質は、グローブの破損そのものではありません。「OOS結果が出ても調査せず、合格が出るまで試験を続ける」という運用が、組織の中で黙認されていた構造にあります。試験の目的が「事実の確認」から「記録の作成」にすり替わってしまった時に、このようなことが繰り返されるようになったのではないでしょうか。FDAが見るのは、最後の試験結果ではなく、その結果に組織がどう向き合うかという品質システムの設計なのではないかと思うのです。

「リーク試験はちゃんとやっている」という現場は多いと思います。ただ今回のケースが問いかけているのは、OOS結果が出た時に、その試験が本来の目的を果たしているかどうかだったんですね。

その再試験を開始する時に、何を期待していますか…

対象:Warning Letter 320-26-12 MARCS-CMS 714137, Apotex Inc., 2025年10月31日

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