「APIの安定性試験プログラムの設計」 − FDA査察から見た目のつけどころとチェックポイント
今回取り上げたのは、2026年4月15日にFDAがAPIメーカーのHangzhou Yiqi Biotechnology Co., Ltd. (中国)に発行したWarning Letterです。全文は以下のURLで確認できます。原文は英語ですが、ブラウザの翻訳機能で日本語で読むことができます。
https://www.fda.gov/inspections-compliance-enforcement-and-criminal-investigations/warning-letters/hangzhou-yiqi-biotechnology-co-ltd-720707-04152026
1つ補足しておきたいのは、このWarning Letterが現地査察ではなく、FD&C Act の第704条(a)(4)に基づく記録提出要求への回答を精査した結果として発行されたという点です。FDAは現地に行かず、提出された記録からGMPの重大な逸脱を評価(Warning Letterを発出)することができます。この事実は、「現地査察を乗り越えれば…」という考えを打ち消すことになるかもしれません。結果としては、GMP遵守の姿勢を正すことができるとも言えそうです。
このWarning Letterで注目してみたのは、指摘事項4項目のうち3番目の安定性試験プログラムの設計に関する問題です。指摘はとても単純です。オンゴーイング安定性試験が実施されておらず、APIの品質特性がリテスト日または有効期限を通じて保持されることを実証するデータが不足していたというものです。そして、FDAはこのWarning Letterの回答で次のことを求めました。回顧的リスクアセスメントの実施、安定性指示法(Stability indicating methods)の確立、販売時の容器・包装形態での試験、代表ロットを毎年追加する継続的プログラム、時点(time point)ごとの試験項目の明確な定義、そしてこれらを全て記述した手順。最後にこれらを網羅した是正計画を求めました。
日本のGMP省令でも安定性の確認は求められており、ICH Q7(11.5)にはAPIに特化した安定性試験の要件を定めています。しかし現場では、「初回の安定性試験は実施した」「加速試験のデータはある」という実績ベースの発想を見かけることがあります。FDAが問うのはそこではなく、「プログラムとして設計されているか」という点です。安定性指示法という概念も、ここで重要になります。これは分解物や品質劣化を検出できる特異性を持つ試験法のことです。この方法が確立されていなければ、試験結果が「安定している」ことを示しているのか、単に「劣化を検出できていない」だけなのかが区別できません。プログラムの設計とは、この問いに答える仕組みを持つことでもあります。ちなみに、薬局方試験法は、通常、規格適合性を確認する試験法として位置づけられますが、安定性試験用として確立したものではありません。
ここで、査察官の思考プロセスを推論してみました。
APIにリテスト日が設定されている →
その根拠となる安定性データを確認する →
提出記録に十分なデータがない →
継続的な安定性プログラムが存在するか確認する →
設計されたプログラムが文書として存在しない →
安定性指示法も未確立 →
有効期限の設定根拠が科学的に担保されていない →
これは試験の不足ではなく、プログラムの設計ができていないことを示す
「試験をしていなかった」という見方もできますが、FDAの指摘の本質はそこではないと思います。試験結果の有無よりも、「継続的な安定性プログラムが設計として存在していなかった」という構造的な問題として捉えられています。安定性とは、一時点のデータで証明するものではなく、時間軸の中で製品の品質を追い続ける仕組みによって支えられるものです。その仕組みが設計として組み込まれていなければ、過去のデータがあっても「このAPIは期限を通じて品質を維持する」という科学的保証は成立しません。「今まで問題が出ていない」という実績と、「問題が起きない設計になっている」という保証は、別の話ですよね。そしてこの差が、再発する構造を生み出してしまうわけです。
安定性プログラムは、「プログラムとして」設計されているでしょうか。1)毎年代表ロットを追加する仕組みがあり、2)時点ごとの試験項目が文書に定義され、3)安定性指示法が確立されているでしょうか。この三つを、確かめておく必要があることを、このWarning Letterは教えてくれているように思います。
薬局方試験で「規格に適合する」ことを確認するだけでは、時間とともに進む劣化を見ていることにはなりません。安定性試験で最初に問うべきは、「何を測るか」ではなく、「何が劣化したら、それを検出できる方法になっているか」なのだと思います。
安定性試験とは、規格適合を見るためではなく、劣化を見逃さないための設計です。
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