FDA査察対策の盲点?—Warning Letter だけでは見えない「SOP記載の不備」ー前編
はじめに:Warning Letter は「氷山の一角」
FDA査察でどのような指摘がされているかを知るうえで、Warning Letter は貴重な一次資料です。査察後にFDAが企業へ送付するこの文書には、深刻なCGMP違反の内容と企業への是正要求が明記されています。そして、誰でもFDAのウェブサイトで閲覧できます。そのため、GMP担当者にとっては、他社事例を学ぶ定番の情報源となっています。
しかし、Warning Letter だけを読んでいると、査察で実際に起きていることの全体像を見落とす可能性があります。理由は単純です。
Warning Letter は、査察で指摘された問題のうち、是正されないまま残った重大事項が記載されるものだからです。査察官から指摘を受けた時点で企業が迅速に対応し、是正が認められたものは、Warning Letter には掲載されません。
つまり、Warning Letter には、査察で確認された問題のうち、FDAが重大なCGMP違反として企業に是正を求める必要があると判断した事項が記載されます。査察の現場で何が問われたかをより広く把握するには、査察官が企業に直接交付する文書—FDA Form 483(以下、FDA-483)を読むことが不可欠になります。
FDA-483 を読む際の注意点
FDA-483 は査察官が施設を離れる前に手渡す「観察事項」の記録であり、査察時点における査察官の見解を示すものです。その後、企業の回答やFDA内での検討を踏まえて、Warning Letterなどの追加対応につながるものもあれば、そこまで進まないものもあります。
したがって、FDA-483 に記載されたすべての観察事項が確定した違反と見なされるわけではありません。この点を念頭に置きながら読むことが前提です。
その前提を踏まえたうえで、FDA-483 には Warning Letter では見えてこない情報があります。それは「査察官が現場で何に目を向けたか」、すなわち査察官の視点と着眼点です。Warning Letter が「結果」であるとすれば、FDA-483 はその「プロセス」を映し出す鏡と言えるかもしれません。
今回のテーマ:SOPの記載内容に関する指摘
査察官が現場で繰り返し目を向ける領域の一つが、SOP(Standard Operating Procedure:標準作業手順書)の記載内容です。「SOPはある。しかし記載が不十分である」—この類の指摘は、製剤製造所・API製造所を問わず登場します。
そこで、Warning Letterには現れないようなSOPの指摘事項について、抽出してみました。実際にFDAが発行したFDA-483から数例を抜粋して、整理します。各例には指摘の原文(英語)、要点の日本語解説、そして見直しに向けた実践的なチェックポイントを書いてみました。
このチェックポイントは、言うまでもなく個人的な意見です。それぞれの会社の背景や条件で、意見は異なります。このブログは、これらの事例から、SOPの記載内容をFDA査察官はどのように見ているか、それに応えてどのように書くとよいか、を考える機会にしてもらえればと思って書きました。
例1 Novo Nordisk A/S(API製造所、デンマーク)
査察日:2024年3月 / 施設区分:Drug Substance Manufacturing Site
Observation 6(原文)
Written procedures used in the manufacture, processing, or packing that are designed to assure identity, strength, quality, and purity of the drug substance are inadequate. Specifically, SOP Q0800455 “Behaviour in API production facilities and Sourcing warehousing facilities" ver. 1.0 does not include a description of behavior for product contact material to minimize the risk of contamination to the DS.
【解釈】 原薬(DS: Drug Substance)の製造・加工・包装に使用される手順書が不適切でした。当該SOP「API製造施設および原料倉庫施設における行動」には、DSへの汚染リスクを最小限に抑えるための「製品接触材料」に対する行動に関する記述が含まれていなかった。
→接触する素材の取り扱い行動—汚染リスクを低減するための具体的な行動規範—がSOPに記載されていない。
【チェックポイント】APIまたはDS製造に関するSOP・施設行動基準に「製品接触材料(product contact material)」の定義と取り扱い手順が明記されているか確認しましょう。記載がある場合でも、その内容が具体的な行動レベルまで落とし込まれているかを考えてみましょう。
参照元:https://www.fda.gov/media/183181/download
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