「溶媒の来歴をたどれるか」— FDA査察から見た「目のつけどころとチェックポイント」

FDAは、インドにあるMylan Laboratories Limited Unit 8のAPI製造工場を査察し、2019年11月5日付でWarning Letterを発出しました。宛先は、米国ペンシルベニア州に置かれていた同社の経営責任者です。

この事例では、バルサルタンAPIからニトロソアミンであるNDMAおよびNDEAが検出されたことを機に、原材料、とりわけ回収溶媒の管理が問題となりました。原文は以下のURLから確認できます。ブラウザの翻訳機能を使用すれば、日本語で読むことができます。

https://www.fda.gov/inspections-compliance-enforcement-and-criminal-investigations/warning-letters/mylan-laboratories-limited-589297-unit-8

この査察で指摘された内容は、次のように整理できます。

① 複数の外部受託業者から調達した回収溶媒が、ニトロソアミンで汚染されていた
② それらの溶媒を、どのタンクに入れて保管したのかを示す記録がなかった
③ 各回収溶媒タンクについて、どのように使用されたかを示す記録がなかった
④ そのため、汚染された溶媒が他のAPIの製造にも使用された可能性を十分に評価できなかった

さらに、この会社は、高濃度のNDEAを含む回収溶媒を使用しても、API中のNDEA濃度には有意な影響を及ぼさないと結論づけていましたが、十分な科学的根拠を示していませんでした。

FDAは、単に個々の試験結果や記録の有無だけを見ているわけではありません。原材料の供給源、受入れロット、保管タンク、製造での使用先、そして最終的なAPIバッチまで、汚染の経路と影響範囲を後でたどれる仕組みが、品質システムとして設計され、実際に機能しているかを確認します。

さて、査察官がどのような思考プロセスをたどったのか、想像してみましょう。

→ 2018年12月までに、NDEA汚染を理由としてバルサルタンAPIの全バッチが回収された事実を確認する
→ 汚染源を調査する
→ 外部受託業者から調達した回収溶媒が関与していたことを確認する
→ その回収溶媒を、どのタンクに入れて保管したのかを確認する
→ しかし、使用したタンクを示す記録がない
→ 各回収溶媒タンクの使用履歴も残されていない
→ 汚染された溶媒を保管したタンクが、他のAPIの製造に影響したかを評価できない
→ これは、個別の記録の欠落ではなく、原材料管理システム全体の問題ではないか
→ 汚染源と影響範囲を遡れない構造そのものが問題である

この一連の指摘を眺めてみると、問題の本質は「溶媒が汚染されていた」という個別の事象だけではありません。より本質的な問題は、その汚染がどこから入り、どのタンクを経由し、どのAPIに伝播したのかを追跡できない構造にあります。

・記録がない。
・使用したタンクを特定できない。
・影響を受けたAPIの範囲がわからない。

これは、日常的に問題なく動いているように見えた管理体制が、想定外の汚染リスクに直面したとき、一気に破綻する姿ではないでしょうか。

FDAは是正要求の中で、受け入れる原材料が混合されないことを確実にする手順、汚染された溶媒を保管したタンクの分析、他のAPIへの影響評価、さらに原材料管理システム全体に対する第三者評価を求めています。

したがって、こうした問題は、SOPを一部改訂し、関係者を再教育するだけでは解消しないと思われます。原材料の受入れ、タンクへの投入、保管、払い出し、製造での使用、供給者およびロットとの紐づけまで、記録と意思決定の仕組みそのものを見直す必要があるでしょう。品質システム全体を是正しない限り、別の原材料や別の製造工程で、同じ問題が繰り返される可能性があります。

現場では、使用した溶媒の来歴を後からたどることができるでしょうか。どの供給者の、どのロットを、いつ、どのタンクに入れ、そのタンクから払い出した溶媒を、どのAPIバッチに使用したのかを説明できるでしょうか。

記録が残っているとしても、それは誰かの記憶をもとに後から組み立てた記録ではなく、あらかじめ定められた手順に従って、その都度確実に作成された記録でしょうか。

「溶媒の来歴をたどれるか」。

そこに少し立ち止まって考えてみることが、原材料管理システムを見つめ直すひとつのきっかけになるのではないでしょうか。