品質部門の現場の監視 − FDA査察から見た目のつけどころとチェックポイント
今回のWarning Letterは、インドの原薬(API)メーカー、Indiana Chem-Portに2022年2月2日付で発出されたものです(Warning Letter 320-22-11)。
URL:https://www.fda.gov/inspections-compliance-enforcement-and-criminal-investigations/warning-letters/indiana-chem-port-618173-02022022
原文は英語ですが、Chromeなどのブラウザの翻訳機能を使うと、日本語で読むことができます。
査察は2021年8月に実施されました。少し古いWarning Letterになりますが、FDAが重視している品質部門(Quality Unit)の独立と品質監督(Quality oversight)について考える題材として取り上げました。
APIのGMP基準であるICH Q7は、品質部門に対して、製造から独立した権限と、製造の承認・監視の責任を課しています。ただし、ここには「現場に行く」という直接的な表現はありません。
では、その責任は、記録レビューだけで果たせるのでしょうか。
製造の承認や監視という責任を本当に果たそうとすれば、記録だけでは不十分です。現場の実態を、自分の目で確認する運用が前提になると考えるのが自然です。査察の観点でも、この責任が実効的に果たされているかは、「現場をどこまで把握しているか」で判断されるでしょう。したがって、現場確認を伴わない運用は、結果として要求を満たしていないと評価される可能性があります。
この会社は、その境界が曖昧で、品質部門が製造現場の実態を自ら確認・評価する仕組みが機能していませんでした。その結果として、プロセスバリデーションの未実施、変更管理なしの工程変更、設備洗浄バリデーションの不備、さらに流通中の製品のバッチ記録が廃棄されるという、複合的な問題がみられました。
GMP省令でも、品質部門に同様の責任を課しています。ただ日本の現場では、「問題が起きたら製造から報告が上がってくる」という受け身の運用がしばしばみられます。
FDAが問うのは、「品質部門が能動的・継続的に製造の実態を把握しているか」という点です。報告を待つだけの姿勢は、"oversight"とは認められないかもしれません。
FDAにとって品質部門の役割は、「承認の窓口」ではありません。「製造工程に自ら関与する独立した監視機能」です。
これをFDAのある職員は、会合で”watch dog”と表現していました。「客観的かつ厳格に評価し、ミスを見逃さない」監視機能を期待してのことだと思います。
ここで、このWarning Letterにおける査察官の思考プロセスを推論してみました。
流通している製品のバッチ記録が廃棄されていた
→ なぜそれが可能だったのか?
→ 記録管理の監視体制を確認
→ 品質部門が承認・確認プロセスに実質的に関与していない
→ 品質部門は製造の実態をどのように把握しているのか?
→ 現場確認の記録・証跡がない
→ 品質部門は製造から本当に独立しているのか?
→ 組織の実態と権限構造を確認
→ 根本原因:品質部門が独立した監視機能を果たせる「構造」になっていない
この指摘の本質は、設備の問題でも手順書の不備でもありません。品質システムの「設計」そのものに問題があります。
品質部門が現場に立ち入り、プロセスの実態を自分の目で確かめる機会がなければ、逸脱は「報告されないまま」静かに蓄積されていきます。それは担当者の報告ミスではなく、同じミスが再発し続ける「構造」の問題です。
FDAは「何が起きたか」よりも、「なぜそれが防げなかったのか」を問い、その答えを組織の仕組みの中から探します。「仕組みを正す」必要があり、「運用でカバーする」という発想は通じません。
品質保証担当部門は、製造現場を自らの足で定期的に歩き、プロセスの実態を確認しているでしょうか。
「記録が整っていれば現場はわかる」
その考えは、もしかするとFDAの視点から、少しずれているのかもしれません。
「どこにも書かれていません。」
でも、その責任、現場を見ずに果たせますか?
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