「逸脱調査の先送り」— FDA査察から見た目のつけどころとチェックポイント
今回も、Jubilant HollisterStier General Partnership(カナダ)に対し、FDAが2026年5月28日付で発出したWarning Letterから、第2の指摘事項を取り上げます。原文は以下のURLから参照できます。ブラウザの翻訳機能を活用すれば、日本語でも読むことができます。
https://www.fda.gov/inspections-compliance-enforcement-and-criminal-investigations/warning-letters/jubilant-hollisterstier-general-partnership-723537-05282026
今回の指摘は、バッチまたはコンポーネントが規格を満たさない場合の徹底的な調査に関するものです(21 CFR 211.192)。
2025年1月から6月にかけて、ISO 5およびISO 7区域で、複数の微生物環境モニタリングのアクションレベル超過が発生していました。同じ期間のうち、2月・3月・5月・6月には、作業者からカビが回収されるという好ましくない傾向も確認されていました。しかし、この会社がトレンド調査を開始したのは、2025年8月27日でした。最初の発生から約8か月後のことです。
具体的には、ISO 7区域で作業者の首部からカビを含む83 CFUが検出され、アクションレベルを超えていたにもかかわらず、逸脱調査そのものが開始されていませんでした。この会社の説明は、「前任の微生物部門の監督者2名が、製品に関連しない区域の逸脱は調査開始を必要としないと誤って指導していた」というものでした。
しかし、この不十分な環境管理の監督については、2024年11月15日のFDAとの規制上のミーティングでも、すでに議論されていました。つまり、FDAから見れば、これは単なる一過性の判断ミスではなく、過去に指摘・議論された問題が十分に是正されていなかった事例として映った可能性があります。
また、同じWarning Letterでは、可視異物汚染に関する別の調査についても指摘されています。この調査は2025年6月4日に開始されていましたが、査察終了日である2025年11月3日時点でも、5か月後なお「調査中」の状態にありました。さらに、その間も明確な根本原因が特定されないまま、同じ製造ラインで追加バッチの製造が継続されていました。
「製品への直接的な影響がない」と判断された区域の逸脱については、調査の深さや優先度が下がることがあるかもしれません。しかし、FDA CGMPの考え方では、少なくとも分類区域内の環境モニタリングにおけるアクションレベル超過は、潜在的な汚染リスクの兆候であり、調査を開始する出発点になります。
「結果として問題がなかった」という事後の判断が、調査の省略や遅延を正当化するわけではありません。むしろ、調査を行うからこそ、製品影響の有無、汚染リスクの広がり、再発防止の必要性を合理的に説明できるのです。
ここで、査察官の思考プロセスを推論してみます。
環境モニタリングのデータを時系列で確認する
→ 複数月にわたるカビ回収のトレンドを認識する
→ 対応する逸脱調査の記録をリクエストする
→ 記録が存在しない、または大幅に遅れていることを確認する
→ 手順書と実際の運用を照合する
→ 「製品に関連しない区域は調査不要」という誤った慣行が定着していたことを把握する
→ 品質部門がこの誤認識を把握し、是正した記録が不十分であることを確認する
→ 品質システムの監督機能が機能していないと判断する
この指摘の本質は、逸脱調査の遅れや漏れそのものではなく、「誰も是正しなかった」という品質システムの機能不全にあると感じます。
「前任の監督者が誤った指導をしていた」という説明は、事実としてはあり得ることです。しかし、FDAが問うのは、その先のことです。なぜ、そのような誤った慣行が長期にわたって検知されなかったのか。なぜ、2024年11月にFDAと議論された後も、同じような問題が2025年に継続したのか。なぜ、品質部門は手順書どおりに逸脱調査が開始されていることを確認できなかったのか。
品質部門には、手順書が存在することだけでなく、その手順書が実際に正しく運用されていることを保証する責任があります。個人のミスを原因として特定することは、調査上必要な場合があります。しかし、それだけでは問題の解決にはなりません。問題の所在を個人に帰着させただけで、組織としての弱点を見逃してしまう可能性があります。
こうした「誤った認識が定着しやすい構造」は、一度生まれると繰り返されます。したがって、これは単なる教育不足ではなく、構造的リスクと考えるべきです。
アクションレベルを超えた環境モニタリング結果が出たとき、「製品への影響はない」と判断した瞬間に、調査の深さが変わっていないでしょうか。
「問題がなかった」という結果は、「調査しなくてよい」ことの証明にはなりません。むしろ、調査を行ったからこそ、「問題がなかった」と説明できるのです。
この点を、現場と品質部門が共通認識として持てているかどうか。一度、確認してみる価値があるように思います。
◇◇~~~~~~2026年度公開セミナーのご案内~~~~~~◇◇
◆グローバルGMP講座の案内書

