「試験への過剰な依存は問題を見えにくくする?」― FDA査察から見た目のつけどころとチェックポイント
2026年5月28日、Medline Inc(米国)の製剤製造所(Medline Industries, LP)に関するWarning Letterが発出されました。今回は、このWarning Letterの中で最初に指摘されている「再発する微生物汚染の対応に関する不備」について注目しました。原文はFDAのサイト(https://www.fda.gov/inspections-compliance-enforcement-and-criminal-investigations/warning-letters/medline-inc-724347-05282026)で公開されています。ブラウザの翻訳機能を活用すれば日本語で読むことができます。
指摘事項は21 CFR 211.192(調査)です。最終製品サンプルからBacillus cereus(B. cereus)などの問題となる微生物が約9回検出され、2025年1月以降には製造環境からも少なくとも5検体でB. cereusが確認されました。この問題は2025年1月に発行された FDA-483でもすでに指摘されており、2025年5月にはFDAとの規制会議でも議論されていました。つまり、繰り返し警告を受けながら、抜本的な改善に至らなかった事例です。
注目したいのは、汚染そのものよりも、会社の「回答の質」をFDAが問題にしている点です。FDAは次のように、「以前のCAPAがなぜ成功しなかったのかを説明していない」、「根本原因の特定が不十分」、そして「最終製品の微生物試験のみを、出荷を正当化するための根拠にはできない」と述べています。
私たちの現場ではどうでしょうか。「CAPAの記録が整っていればOK」、「製品試験が規格内ならOK」という考えで運用されていないでしょうか。FDAがこの会社を問題にしたのは、そのような運用の考え方だと思います。
ここで、査察官の思考プロセスを推論してみました。
「繰り返す汚染(結果)」→
「CAPAを完了しているのになぜ再発するのか(CAPAの機能不全?)」→
「根本原因が正しく特定されていなかったのではないか?」→
「その原因を見えなくしている、調査の設計・品質システムの構造的問題は何か?」
このように推論すると、査察官は最終製品の試験結果を「問題がない証拠」として見ているのではなく、「問題を見えにくくする構造」として捉えているのではないでしょうか。汚染は均一に分布しないため、ある検体でOKが出ても、それは全体の品質を保証しない。この科学的事実をFDAは明確に指摘しています。
では、FDAが受け入れやすい回答とはどのようなものだったのでしょうか。単に「新たなCAPAを実施した」とするだけでは不十分です。「過去のCAPAがなぜ機能しなかったのか」を分析し、「根本原因の特定が誤っていたのか」、「実施が不完全だったのか」、「有効性の評価が形式的だったのか」を明確に結論づけた上で、今回のCAPAとの論理的なつながりを示すことが求められているのだと推測されます。さらに、最終製品の試験を管理戦略の中心に置くのではなく、製造工程の設計と環境管理によって汚染を防止する、という考え方への転換を示す内容が必要だったと思われます。すなわち、品質を工程で作り込む戦略です。
今回の指摘は、操作ミスや手順違反といった「人のミス」で終わらせてはいけないことを示していると考えられます。そのミスが繰り返される構造(調査の設計力、根本原因へのアプローチ、CAPAの有効性の検証、そして品質システム全体の機能)が問われているのです。「運用でカバーする」という考えが通用しなかったのは、その運用自体の中に、再発を招く構造が残っていたからではないでしょうか。
どうでしょう、現場で同じCAPAが繰り返されていないでしょうか。あるいは、「試験結果が不合格の製品は出荷していないから問題ない」という判断をして、根本原因の究明を途中で止めていないでしょうか。
「CAPAの記録に残っている」ことと、「問題が解決されている」ことは、必ずしも同じではないかもしれません。
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