「製造環境の清潔さは、設計と維持管理の結果」 — FDA査察から見た目のつけどころとチェックポイント
今回取り上げるのは、前回のブログで紹介したWinder Laboratories, LLC(米国)に発行されたWarning Letterのもう1つの指摘事項です。この会社は錠剤を中心とした固形製剤の製造業者で、2025年7月から8月にかけて査察が実施されました。原文はFDAの公式サイトに掲載されています(https://www.fda.gov/inspections-compliance-enforcement-and-criminal-investigations/warning-letters/winder-laboratories-llc-718601-01072026)。Google翻訳などのブラウザ翻訳機能を使って日本語で読むことができます。
今回は、「施設の良好な修繕状態の維持」(21 CFR 211.58)の指摘事項に注目しました。査察官が製造室で見たのは、機械室の保護壁の隙間、その隙間の黄褐色の付着物、打錠室の天井のベントをテープで固定した状態、そしてある保管・収納室の未仕上げで清掃できない壁面でした。いずれも、日常的なおろそかな維持管理の積み重ねによって生じた状態です。
「製造所は清潔で衛生的であること」は、どの国のGMPでも求められることで、建物・施設の維持管理は基本事項です。しかし、「施設の維持管理」は設備管理担当部門の問題として扱われ、品質部門が主体的に関与する領域と認識されにくい場合があるように感じます。FDAの視点では、施設の物理的状態は製品品質リスクに直結しており、品質システムの一部として管理されるべきものとみなされています。
ここで、査察官の思考プロセスを推論してみましょう。
→ 壁の隙間、未仕上げの壁面、テープ留めの天井ベントが確認できる
→ 日常的な巡回・点検が機能していれば早期に発見される事象
→ 日常管理の仕組みが弱い
→ 隙間に付着した物質は、汚染源として製品リスクに直結する
→ 過去の査察でも繰り返し類似の指摘が行われている
→ これは「単なる見落としではない」
→施設を品質リスクの観点で管理するシステムが存在しない
この指摘の本質は、「修繕が遅れていた」という事実ではないですね。FDAが問題にしているのは、施設の劣化を早期に検知し、品質リスクとして評価し、計画的に是正するための管理システムが機能しているかどうか、という点です。
壁の隙間は、ある日突然現れるものではありません。徐々に広がり、誰かの目に触れながら、しかし「GMP上の問題」として認識されないまま放置されました。その背景には、施設管理を品質システムの一部として位置づけていない組織的な構造があるのかもしれません。
「運用でカバーする」という発想は、日本の現場でも決して珍しくはないと思います。しかし、設計・施設の状態そのものが汚染リスクを有しているとき、運用の工夫は根本的な解決にはなりません。
施設では、製造環境の維持管理状況を、誰が、どのような視点で、どのくらいの頻度で確認されているのでしょうか。その確認の目は、品質リスクを意識したものになっているでしょうか。
排水管のバルブは錆びていませんか。空調室の配管断熱材はほころびていませんか。むかし、そんなFDA-483 を見たことがあります。今回のWarning Letterは、製造環境の「清潔さ」とは、清掃作業だけではなく、設計と維持管理の結果であることを、改めて考えさせてくれます。
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