「目視検査は完全ではない」− FDA査察から見た目のつけどころとチェックポイント
今回は、前回と同じWarning Letter(Reference #: 320-26-68、2026年4月15日付、Par Health USA, LLC & Endo USA, Inc.)のObservation 3について取り上げます。21 CFR 211.160(b)に基づく試験室管理の不備が指摘されています。対象は無菌注射剤の目視検査プログラムです。原文はFDAのウェブサイト(https://www.fda.gov/inspections-compliance-enforcement-and-criminal-investigations/warning-letters/par-health-usa-llc-endo-usa-inc-722121-04152026)にあり、ブラウザの翻訳機能を使って日本語でも内容を確認できます。
具体的に何が問題だったのでしょうか。この会社は、Knapp studies(目視検査の検出能確認試験)を実施しており、150μm以上の微粒子(ダークファイバー、ライトファイバー、ガラス等)に対して、検出確率70%を達成できない作業者が多いことを示していました。
また、本来「クリティカルな欠陥」として扱うべき異物を「メジャーな欠陥」に分類し、AQL試験を通過させていたことも明らかになりました。さらに、手順書では複数回(回数は伏せ字)の再検査が認められており、結果として出荷判定を支持する運用となっていました。2023年以降に発生しているガラス付着に関する欠陥についても、十分なトレンド調査が行われておらず、再発が繰り返されていることが指摘されています。
試験・検査に関する要件において、FDAが重視しているのは「検出の確率論的妥当性」です。「目視検査を実施している」という事実よりも、「統計的に意味のある確率で欠陥を再現性をもって検出できるか」が問われます。この考え方はPIC/S GMP Annex 1にも通じており、検出能力の証明や作業者の適格性(能力)の証明を求めている点に表れています。手順書に「100%目視検査を行なう」と記載するだけでは不十分であるということです。欠陥の分類基準が現場で一貫しているか、再検査の回数制限が科学的根拠に基づいて設定されているかも、重要な確認ポイントになります。
ここで、査察官の思考プロセスを推論してみます。
AQL不合格が後から発覚 → なぜ出荷前に検出できなかったのか? → 欠陥分類が誤っていた → なぜ誤分類が起きたのか? → 手順の判断基準があいまいで、現場への浸透も不十分 → 再検査を繰り返せる仕組みが構造的に「見逃し」を許容していた → 2023年以来繰り返されているということは、CAPAが本質的な課題に到達していない
この事例が示している本質は、「実施しているという事実」と「機能しているという証拠」の違いにあるのかもしれません。目視検査を100%実施していたとしても、それが「意味のある欠陥の検出」につながっているかどうかは別の問題です。再検査を繰り返せる手順は、一見柔軟な対応に見えますが、実際には「見逃しを許容する構造」でもあります。FDAはこれを単なる手順の問題ではなく、「品質システムの構造的欠陥」として捉えているように読み取れます。CAPAが繰り返し実施されながら同じ問題が続く場合、それはCAPAの設計そのものを問い直す必要があるサインです。
私たちの目視検査は、「検査した」という記録にとどまらず、「検出できた」という根拠として機能しているでしょうか。Knapp studiesの結果は、実際の製造条件を適切に反映しているでしょうか。欠陥の分類基準は、QA・QCと製造の間で共通認識となっているでしょうか。批判的思考を持つことが、査察官の視点に近づく第一歩ではないかと感じます。
◇◇~~~~~~2026年度公開セミナーのご案内~~~~~~◇◇
◆国際レベルGMP監査員養成講座の案内書
◆グローバルGMP講座の案内書

