GMPのコストはカットできるか
「コストカットでも、私どもはお客様の命をお預かりしている会社ですから、安全に関するコストは削らなかった」と言ったのは、ANAの大橋洋治会長でした。カンブリア宮殿というテレビ番組の中での話です。
会社再建のためにコストを削減しなければならなかったが、最も大切な顧客の命にかかわるコストは削らなかった。企業経営において何が大切かを教えてくれる言葉として、長く記憶に残っています。
たとえば、一人でできる作業に、もう一人が立ち会うなど、一見無駄に見えてしまうGMPのためのコストですが、これも安全に関するコストといえます。医薬品の製造品質に関わる大規模な死傷事故が発生するたびに、より厳しい管理を求めてGMPが改正されてきました。そのため、外部環境要因が大きく影響するGMP遵守のコストは、右肩上がりで上昇しています。
工場は、全体がコストセンターです。コスト削減が基本的な使命ですが、GMP関連のコストは、増加し続けているのが現状です。カットすれば、またはストップすれば、GMP遵守が危うくなります。実際に、GMP遵守のための純粋なコストをカットすることはできません。
しかし、GMP遵守のために今まで非効率的に積み上げてきた負の遺産は、もしかしたら大きなコストになって、毎年必要経費の計上や損失の引当金にされているかもしれません。これなら取り崩すことはできます。
大はヒューマンエラーや脆弱な品質システムによって発生するロットの回収や不合格処分から、小は頻繁な逸脱調査、そして応急処置的な是正がもたらす必要以上の多重チェック(私はこれをパッチワークと呼んでいます)まで、コストカットの潜在スポットは多くあるはずです。
全体のコストに比べれば無視できるほど小さいコストかもしれません。しかし、負の遺産をカットするために、効果的なGMPの遵守と向き合うようになれば、後々発生するかもしれない大きな問題を根こそぎ引き抜くことができます。その成果はほんの数%でも、潜在的な問題の低減は、目に見えない多くの利益をもたらすはずです。
その負の遺産のコストは明確になっているか、コストの妥当性の知識は共有されているかといえば、グレーの部分が多いように思います。もちろん、GMPという勘定科目はありません。コストは分散して仕分けられています。
負の遺産の整理は財務諸表からではなく、GMPの現場の分析から始める必要があります。
私は、課業分析とコスト意識の醸成がスタートラインであると考えています。
当局の査察で指摘された時、指摘事項1件のコストはどのぐらいか、改善計画から改善までの期間の機会損失はどのぐらいか、自分のコストはいくらか…現場の皆さんが答えられたら、素晴らしいことだと思います。å