企業の買収や合併で、組織が大幅に変化する

「企業買収や施設の変更は、大きな問題を生み出す…買収は変化を生み、変化は予想外の相互作用を生み、予想外の相互作用が非遵守の問題を生むことは、みなさんが常に直面する問題です。」J. Macher, PDA Annual Meeting, Chicago, April 2005 Reported in The Gold Sheet, May 2005

問題は人の移動です。人の移動によって「組織の知識」が喪失します。その時は気づきません。それから3年もすると、いろいろな逸脱や変更が発生して、問題が表面化することが調査で分かりました。

人が変わっていくのはしょうがないことですが、組織には伝承という「組織の知識」を維持する力があります。しかし、勝手に伝わるものではありません。私たちは、伝える方法を考える必要があります。しかし、うまく伝わっていないことが多いようです。

「組織を強くする技術の伝え方」畑村洋太郎著に書かれていました。

六本木ヒルズの回転ドアに子供が挟まれた事故の話です。事故を起こした回転ドアのルーツは、オランダだそうです。それが日本に伝わり、安全対策として最も重要な「ドアは軽くなければ危ない」という知識が途中で失われました。オランダ製の回転ドアは、アルミを使った0.9トンの軽いものだったのですが、日本では最終的に2.7トンにまでなりました。

寒さの厳しい欧州では、回転ドアは暖房効果をあげるために外気を遮断する道具だったのですが、温暖な日本では外気の遮断よりも、高層ビルのドラフト現象(上昇気流が発生し、ドアが開かなくなってしまう現象)に対抗することが求められました。

そのため、圧力差に対抗することが求められ、「ドアは軽くなければ危ない」という大切な知識が失われたのです。強度を増すためとステンレス装飾によって、重さがどんどん増したということです。

なるほど!

このようなことが、GMP規則の遵守でも起こるわけです。以前は、GMP遵守のために「○○が重要」という経験があり、そのため不便でも○○を用いていた。ところが、人が離職して、「○○が重要」という記憶が組織からなくなってしまった。

はじめは、変更をしないので何も起こらない。しかし、1年経ち、2年経ち、「ちょっと不便だな」と考えるようになり、「○○はやめよう」と変更されてしまうわけです。

それからしばらくすると、逸脱が起きます。また、起きます。逸脱が、時々起きるようになります。「あれ?なんだろう」と思ったときには、すでに手遅れで、組織の記憶も忘れ去られています。

これが、毎ロット発生するのなら、話はそれほど難しくありません。しかし、20バッチに1回、半年に1回しか起こらないとすれば、悲劇的な結末になるでしょう。