「原料を知るということ」— FDA査察から見た目のつけどころとチェックポイント
今回は日本の企業(OTC医薬品製造所)に対して発出されてしまった内容を、原料管理の観点から考察したいと思います。(https://www.fda.gov/inspections-compliance-enforcement-and-criminal-investigations/warning-letters/asanuma-corporation-721136-sagamihara-factory)
FDAは、この会社が米国向けOTC医薬品の製造所として登録されていることを前提に、FD&C Act 704(a)(4)に基づいて提出された記録をレビューし、CGMP上の重大な不備を指摘しました。
日本企業向けのCGMP Warning Letterとしては、2026年に入ってから目立つ事例が続いています。FDAは、日本のOTC医薬品製造所に対しても、米国向け製品である以上、21 CFR 210/211に基づくCGMPの遵守を求めます。また、FDAは外国製造所に対する無通告査察の拡大方針も示しており、今後は「査察前に整える」のではなく、日常的にCGMPを満たしていることが強く求められる環境になってきたと考えられます。
今回のWarning Letterの主な指摘は、OTC製品に配合されるTalc(タルク)の受入管理に関するものです(21 CFR 211.84(d)(1)および211.84(d)(2))。FDAは、この会社が入荷したタルクについて、使用前に同定試験を実施しておらず、またアスベスト試験も実施していなかったと指摘しています。さらに、供給業者のCOAに依存する場合には、供給業者の試験結果の信頼性を適切な間隔でバリデートしておく必要がありますが、その記録も提示されていませんでした。
FDAは、この会社のタルクの規格が、USP Talcモノグラフを満たしていないとしました。特に、アスベストの不在確認試験が規格に含まれておらず、一部の不純物限度がUSPの限度より緩く設定されていました。このようなFDAの観点からは不十分な規格を、QU(品質部門)が承認し使用することを認めていた点で、品質部門が責任を果たしていないと指摘されています(21 CFR 211.22)。
日本では、Talcは用途に応じてJP(日本薬局方)または食品添加物公定書の規格が参照されることがあります。しかし、米国向け医薬品に使用する成分がUSP収載品である場合、FDAは、該当するUSPモノグラフへの適合を重視します。したがって、「国内規格に合っている」という認識だけでは、FDA向け製品の原料管理を満たしていない場合があります。特にタルクのように、天然鉱物由来であり、アスベスト混入という安全性上の重大リスクを持つ原料では、規格の差異を自社で把握し、必要な試験項目を設定しているかが重要になります。
ここで、FDAのレビュー担当者の思考プロセスを推論してみました。
Talc含有OTC製品の原料受入記録を確認する→
同定試験が実施されていない→
アスベスト試験も実施されていない→
供給業者のCOAに依存している→
COAの信頼性をバリデートした記録がない→
自社規格を確認すると、USP Talcモノグラフを満たしていない→
アスベスト不在試験がなく、一部の不純物限度もUSPより緩い→
QUがその規格を承認し、使用を認めている→
結果として、サプライチェーンと原料品質を独立して検証する仕組みが機能していない。
これは「担当者が試験を怠った」という問題ではありません。「試験しなくてよい体制が組まれていた」という構造的な問題です。原料のリスクを把握し、適切な規格を設定し、供給業者のCOAをどこまで信頼するかを検証する仕組みが、品質システムとして機能していなかったと見ることができます。
思い起こせば、こうした原料リスクは過去に甚大な被害を生んでいます。2006年のパナマにおけるグリセリンの薬害事件では、ジエチレングリコール(DEG)が混入したグリセリンを使用した製品により、多数の死亡例が発生しました。2007〜2008年の米国におけるヘパリン薬害事件では、中国由来のヘパリン原料に類似物質が混入し、多数の重篤な有害事象を引き起こしました。いずれも、供給業者やサプライチェーンを十分に検証しないまま原料を使用したことが、被害を拡大させた要因の一つと考えられます。
COAは、供給業者が「このように試験し、このような結果だった」と示す文書です。しかし、それだけで原料品質そのものを独立して保証するものではありません。CGMPが求めているのは、COAを信じることではなく、「COAを信頼できる状態にする」ことです。そのためには、少なくとも各入荷ロットについて特異的な同定試験を実施し、純度、品質、力価などをCOAに依存する場合には、供給業者の試験結果の信頼性を初回および定期的に確認する必要があります。
自社で使用しているTalcをはじめ、「リスクの高い原料」の受入規格は、USPモノグラフに照らして差異はないでしょうか。COA依存の体制は、供給業者の製造条件、採掘元、試験方法、またはサプライチェーンが変化した場合にも、品質を担保できる仕組みになっているでしょうか。
今回のWarning Letterは、タルクという一つの原料の問題に見えますが、FDAが見ているのはもっと根本的なことではないでしょうか。
「その原料が何であり、どこから来て、何がリスクで、どの試験で確認すべきか」を、製造所自身が理解しているか。
原料を知るということは、自社の品質システムの中で原料のリスクを説明できるようにすることだと思います。
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