もしかしたら深堀GMPに役立つかも
筆休め
PIC/Sはアメリカも加盟しています。それがバイアスになっているのかは分かりませんが、「PIC/S GMPは万能」と考えるとちょっと危険ですという話をします。これは、米国に製品を輸出している会社にいる方向けの話だけではなく、「こんなことがあるので色々調べて解釈する必要があります」という「深堀りGMP」の話でもあります。
FDA査察を受けた日本の事業所(製剤)では、「参考品の年次目視検査」の実施要件で結構FDA-483 を受けています。私が集計したところ、指摘事項のTop10に入っています。ちなみに、これは日本企業に見られる傾向で、FDA‐483全体の指摘事項の傾向ではありません。したがって、ここは日本企業の弱みと考えていいでしょう。CGMPの条文に書かれている直接要件なので、CGMPの解釈が不十分ということになります。もしくは「PIC/S GMPは万能」とばかりに、その部分を省略したのかな。
参考品の(年次)目視検査はFDA独特の要件で、CGMPのセクション211.170 (b)がそれに当たります。このセクションは、最終製品のGMP要件ですが原薬メーカーにも適用するのかというのが今日のテーマです。最近「原薬メーカーにおける参考品の目視検査」に関することで再度調べる必要があったので、その経緯をここに簡単に綴ります。
現在の211CFR210&211は製剤のCGMPとして制定されたものです。製剤のCGMPの制定後も、原薬や注射剤などCGMPを制定する予定でしたが、その負担が大きいということで差し止められました。そのため、これらの各論はガイダンスで補うことになりました。
FDAが原薬CGMPの替わりに作成したのが「ドラフトAPIガイダンス」です。ここでは、参考品(reserve sample)の目視検査を少なくとも年1回行うことが求められています。(参考文献は今回省きます)
すなわち、FDAはAPIメーカーの参考品についても目視検査を期待していたわけです。
しかし、日米欧三極の調和で作成されたICH Q7Aガイド(アメリカ式に表現)を原薬のCGMP査察の判断基準にすることにし、ドラフトガイダンスを廃版にしました。(“..)φ註:しかしFDAは指摘事項の根拠にICH Q7Aガイドを引用しません。これはガイダンスだからだと思います。指摘事項の根拠は、CGMPの上位にある食品医薬品化粧品法に求めています。批判覚悟で乱暴な言い方をすると、この法律は薬機法のようなものです。もうお気づきだと思いますが、このような背景から原薬メーカー向けのFDAのwarning letter には製剤のCGMPのセクションが引用されていません。食品医薬品化粧品法に違反したということで指摘されますので、セクションが引用されていません。
ちなみに、ガイダンスは法的拘束力はないというのがFDAのルールですが、注意してくださいね。ガイダンスの中には多くの「カレント」GMPが入っています。この「カレント」は、これまた乱暴な言い方をすると、「その他所要の措置」のようなものです。FDAが「こうすべきである」と考えるものは、業界標準ではなくてもCGMP要件になってしまいます。
さて、ドラフトAPIガイダンスに替わって採用したICH Q7Aガイドは三極の調和の下に作成されており、日欧では参考品の年次目視検査の要件がないためか、ICH Q7の「APIのGMPガイド」にはAPIの参考品の年次目視検査は要件化されていません。(参考文献略)
このことから、年次目視検査は「ICH Q7のAPIのGMPガイド」および「PIC/S GMP Part II」では必須の要件ではないと考えます。しかし、FDAとしては期待しているのではないかと思われます。(ICH Q7のAPI GMPガイドは三極の妥協が入っているガイダンスだと個人的には思っています。)
そこで、FDA査察官の原薬GMP査察のチェックリストである「FDA CPGM 7356.002F」の最新版(2015)を確認しました。試験室管理システムにおいては、次の領域がFDA査察官のチェック対象になっています。
“・ Adequate reserve samples; documentation of reserve samples examination. “〔適切な参考品;参考品の検査の記録〕(参考文献略)
ここでは"reserve samples examination"という言葉を使用しています。廃版になったドラフトガイダンスの"reserve sample"のセクションを見ると、参考品は"test"用に保存しますが、最低1年に1回"examined visualiy"を行うと書かれています。そして、FDA査察官のチェックリストは、"examination"の記録をチェックしなさいと言っています。とうやら、FDAは原薬メーカーにも参考品の年次目視検査を望んでいると推測されます。
この"examination"が参考品の目視検査のことを言っているのかは、"visual"が入っていないので日本人には判断が難しいと思います。断言できないということです。そのため、米国の元FDA査察官であり、私のCGMPの先生である友人に、何を期待しているのかを問い合わせることにしました。
その結果、返信メールの内容を要約すると「ICH Q7Aは求めていないが、FDAは求めている」ということでした。"examination" はいわゆる参考品の主目的である必要があったときに行う試験("test")ではなく、ルーチンに実施する年次目視検査であるとネイティブは解釈しています。
このように、世界標準と考えられるICH Q7のAPI GMPガイドに要件化されていなくても、FDAの査察官のチェック対象になっており、免除の条件はあるものの、製剤のCGMPセクション211.170(b)の要件を怠っていればFDA-483 が出るということになります。
GMPは広くてかつ深いので、解釈はその状況に応じて深堀りする必要がありそうですというのが今日の結論です。
最後に蛇足ですが、「FDA査察で指摘されなかった」というのは「CGMPを遵守している」ということに直結しないので注意したいですね。用心用心。