ペニシリンの除染の難しさについて(FDA Warning letter:320-19-33の内容から)

今日は、ペニシリンの除染の難しさについて、聞いた話をしたいと思います。FDAはたまに「~しなさい。しかしそれはかなり難しい」と言います。そのような言い方が出ていましたので、あるエピソードを紹介しようと思います。

この話は、以前紹介したペニシリンの交叉汚染に関する警告書(Warning letter#320-19-33)の内容の一部を紹介してから始めます。

警告書はトルコの会社に対して発行されました。警告書発行の背景は以下のとおりです。

トルコの製剤製造施設2箇所に対して、2週間にわたって査察が行われました。これらの工場(CK1とCK2)は、約400m離れていました。CK1は、ペニシリンや非ベータラクタム製剤を含む、いろいろな製品を製造しています。 CK2は、米国向けのカプセル剤をある建物で製造していて、隣の建物でペニシリン医薬品を製造していました。

警告書の中に、次のような一文がありました。(原文は文末にあります)

「ペニシリンの洗浄法のバリデーション

貴社は●溶液を使用して、表面からペニシリンを除染している。しかし、CK1とCK2で使用している除染溶液が、すべての従業員がアクセスできる食堂などの一般区域における効果的な除染剤であることを示す有効なデータがなかった。 2019年2月12日、溶出試験のデモを行った従業員は、CK1の一般食堂での休憩から戻った後で彼女の衣服から汚れが観察され、試験の結果は●だった。ベータラクタム医薬品に曝された従業員が隔離されず、非ベータラクタム医薬品を製造している他の従業員から切り離されていない共有区域を持つことは受け入れられない。

2019年3月6日の回答には、●溶液の洗浄バリデーションの追加研究が含まれていた。しかし、パートAの考察で証拠づけたペニシリンの交叉汚染を取り除くのに、同じ濃度の●溶液を使用したオリジナルの洗浄プロセスがなぜ不十分だったのかを説明していない。

我々は、ペニシリンの潜在的な交叉汚染のために米国市場から●カプセルの全バッチを回収する貴社の決定を認める。

この警告書の回答として、以下を提出しなさい。

非ベータラクタムの施設を完全に除染する計画。ベータラクタムの残留物を施設から完全に除染することはかなり難しい。米国市場向けにペニシリン以外の生産のみ再開できるように除染しようとする場合は、包括的な除染計画を提供しなさい。

施設で使用する全ての除染液のリストとその除染液が製造されたベータラクタム製剤のベータラクタム環を壊せることをサポートするバリデーションデータ。

施設全体のベータラクタム残留物のこれからのモニタリングプログラム。

特定されたベータラクタム汚染経路の管理計画の改訂版。」

(..)φ:今回は「ベータラクタムの残留物を施設から完全に除染することはかなり難しい(profoundly difficult)」とは、どのぐらい難しいのか、あるエピソードを紹介します。これは、以前ある外国のコンサルタントから聞いた話です。もう古い話なので、あまり紹介することはありませんでしたが、この警告書の補足として紹介しておいたほうがいいと思いました。

話はこうです。

ペニシリンの建物を所有している会社がありました。その会社は、もうペニシリンを製造していませんでした。その場所を有効利用するために、建物を壊して建て替えるか、この建物を再利用するか検討しました。結局、建物を壊したくないので、除染をして再利用することにしました。

はじめに、エアーシステムを取り外しました。それから、圧縮エアー、窒素、水システムを外しました。コーティング材も全て除去しました。壁も天井もです。床のタイルも除去しました。最後に残ったのは、コンクリートと鉄だけです。建物はスケルトンになったわけです。

それから、人が入って除染剤を全ての場所にスプレーしました。コンクリートや鉄にも全てスプレーしました。そのようにして、ベータラクタムが活性を示さないところまで変性させました。これが、除染(decontamination)です。このような理由から、FDAは除染がかなり難しいというのです。

なぜここまでするのでしょうか。ペニシリンが隙間に入り込むからですね。ダクトの凸凹や継ぎ目に入り込むので、そのままの姿では除染できないからです。

<原文>
Penicillin cleaning method validation
Your firm uses (b)(4) solutions to decontaminate penicillin from surfaces. However, you lacked effectiveness data to show that the decontaminant solutions used throughout CK1 and CK2 are an effective decontaminant agent in your common areas, including dining areas accessible to all employees. On February 12, 2019, an employee, who performed a dissolution testing demonstration, was observed to have a stain on her clothing that was tested and determined to be (b)(4) after she returned from a break in the common dining area in the CK1 campus. It is unacceptable to have common areas where employees exposed to beta-lactam drugs are not isolated and separated from other employees manufacturing non-beta-lactam drugs.

Your March 6, 2019 response included additional cleaning validation studies for the (b)(4) solutions; however, there is no explanation as to why the original cleaning process, which utilized the same concentrations of (b)(4) solution, was insufficient to eliminate penicillin cross contamination which is evidenced by the findings discussed in part A.

We acknowledge your decision to recall all batches of (b)(4) capsules from the U.S. market due to the potential for penicillin cross contamination.

In response to this letter, provide the following:

A plan to fully decontaminate the non-beta-lactam portion of the facility. It is profoundly difficult to completely decontaminate a facility of beta-lactam residues. If you intend to attempt decontamination so that you can resume solely non-penicillin production for the U.S market, provide a comprehensive decontamination plan.

A list of all decontaminant solutions used in your facility, including validation data to support that the decontaminant solutions can break the beta-lactam ring of the beta-lactam drug products manufactured

A program for future monitoring of beta-lactam residue throughout the facility

A revised control plan for identified routes of beta-lactam contamination