「平均すると合格です」― FDA査察から見た目のつけどころとチェックポイント

今回取り上げるのは、FDAが2026年10月5日付でSilgan Dispensing Systems(米国)に対して発出したWarning Letterです。査察対象は、非無菌のOTC医薬品を受託製造する関連会社Silgan Unicep Packaging, LLCの製造所です。原文は以下のURLに掲載されています。また、ブラウザの翻訳機能を使用すれば日本語で読むことができます。

https://www.fda.gov/inspections-compliance-enforcement-and-criminal-investigations/warning-letters/silgan-dispensing-systems-734538-10052026

今回注目したいのは、違反事項リストの1番目、21 CFR 211.192の調査に関する指摘です。

2025年11月、この製造所では医薬品の製造に使用する原料の微生物試験で、酵母・カビ数が規格を超えるOOS結果となりました。しかし、十分な調査を行わず、複数の試料の試験結果を平均して、規格に適合していると判断しました。さらに、その平均値で判定できるようにサンプリング計画まで変更していました。

FDAは、この方法がUSP〈61〉に適合せず、ロット内の微生物汚染の不均一性をマスクしてしまうと指摘しました。その原料は合格判定され、製品の製造に使用されました。

なお、この製造所では、微生物汚染の可能性から顧客によるクラスI回収も行われており、FDAはその原因調査と是正措置の不備も指摘しています。

ここで考えてみたいのは、OOSの原因調査と規格への適合性を判断するプロセスの関係性です。

調査の結果として、不適合を否定できる科学的根拠がなければ、OOS結果は有効として扱う必要があります。平均値が規格内だからといって、個々の不適合結果が消えるわけではありません。

ここからは、私の個人的な空想です。もしかして、EU GMP Annex 1の旧版にあった環境微生物モニタリングの限度値に関する『平均値』という記述を、この原料試験の判定に当てはめてしまったのかな。この指摘事項は微生物試験なので、ダイレクトにFDAのOOSのガイダンスを適用することはできません。しかし、このガイダンスには、報告可能な試験結果に規格内と規格外の値がある場合の考え方が書かれています。個人的な空想なので詳しくは書きませんが、その意味付けはヒントになるかもしれないと、ふと思いました。

ここで、査察官の思考プロセスを私なりに推論してみました。

OOS結果を平均して合格と判定している
↓
なぜ個々の不適合結果を無効と判断できるのか
↓
なぜ原因調査より先に平均値で判定したのか
↓
なぜサンプリング計画まで変更したのか
↓
誰が、どのような科学的根拠で変更を承認したのか

FDAが問題としたのは、平均値による判定だけではありません。会社は手順の改訂や教育訓練などを約束しましたが、FDAは是正措置の有効性を検証する計画がなく、問題を許容してきた品質監督の仕組みも改善されていないと指摘しました。

現場では、問題を解決するために手順を変更することがあります。しかし、原因を明らかにしないまま、運用や判定方法を変えて対応すると、同じ問題が再発する構造を残してしまうかもしれません。

今回のWarning Letterは、OOSの調査を終わらせることと、品質上の問題を解決することの違いを考える機会になるように感じます。

現場でOOS結果を前にしたとき、その原因を明らかにすることと、合格と判断することのどちらを優先しているのでしょうか。改めて、品質システムの運用と知識管理の大切さを考えさせられるWarning Letterでした。