「工程性能」はどこにあるのか―FDA査察から見た目のつけどころとチェックポイント
今回は、前に2回取り上げたEugia Pharma Specialities LimitedのWarning Letterを、また取り上げることにしました。
同じWarning Letterを3回も使うのはどうかなとも思いましたが、今回は指摘事項そのものを説明するわけではありません。同じWarning Letterを、少し別の視点から考えてみました。
きっかけは、現在再編集しているグローバルGMP講座です。
FDAのProcess Validation Guidanceを読みながら、Stage 3のContinued Process Verificationのスライドを作っていて、process performanceとprocess capabilityという二つの言葉が、改めて気になったのです。
似ていますよね、どちらも。
FDAは、process capabilityを「その製品に求められる要求事項を満たす製品を生産する工程の能力」と定義しています。また、Process Validation GuidanceのStage 3では、工程の安定性やprocess capabilityを評価するために、製造データを収集し、統計的方法を使うことを勧めています。
ここだけ読むと、Continued Process Verificationとは、工程パラメータや品質特性のデータを継続的に収集し、管理図や工程能力指数などを使って工程を監視することのように思えます。
もちろん、それは大切なことです。しかし、その少し先を読むと、もう少し違った姿が見えてきます。
FDAはStage 3で、開発時に予測した変動要因に対して適切な検出、管理、低減策を設定するだけでなく、商業生産を続ける中で、それまで知られていなかった新たな変動要因が現れることも想定しています。そして、その変動を見つける方法として、統計的方法だけを示しているわけではありません。統計的方法に加えて、より定性的な方法も利用できるとしています。
私なりに整理すると、FDAはおおよそ次のようなことを期待しているように読めます。
– 予測した変動要因に対する管理策を維持する
– これまで分からなかった新たな変動要因を見つける
– 統計的方法とともに、必要に応じて定性的な情報も利用する
– 苦情、OOS、逸脱、収率変動、バッチ記録、原材料受入記録などから変動を見つける
– 製造職員と品質部門から、process performanceについてフィードバックを得る
最後の行は、十数年前にこのガイダンスのドラフトを読んだ頃から、私の中でずっと引っかかっていました。
「製造職員からprocess performanceについてフィードバックを得る」
さらにFDAは、品質部門が製造職員と定期的に会い、データを評価し、好ましくない傾向や工程変動について話し合い、必要な是正やフォローアップを調整することを勧めています。
この部分は、これまで講座でも何度かお話ししてきました。
ところが今回、この会社のWarning Letterを読み返していて、この記述が妙に頭の中で重なりました。前2回のブログでは、この会社のRABSの設計や不適切な無菌操作、メディアフィル、教育訓練、監督の仕組みについて書きました。今回は、その話の繰り返しではありません。
気になったのは、「あの無菌操作は、会社の持っていた『工程のデータ』にどのように現れていたのだろう」ということです。
この会社はFDAへの回答で、環境モニタリング、人のモニタリング、メディアフィルの再適格性評価などを根拠として、最終製品への影響はないと説明していました。つまり、会社が持っている管理されたデータから工程を見れば、問題はそれほど大きく見えなかったのかもしれません。
しかしFDA査察官が実際の製造現場を見ると、そこには別の情報がありました。
−作業者の身体の位置
−手やガウンの動き
−無菌接続をするときの姿勢
−設備と作業者との位置関係
こうしたことは、環境モニタリングの数値にはそのまま現れません。OOSにもならないでしょう。製品試験も合格するかもしれません。バッチ記録にも、「本日の作業者は少し無理な姿勢で無菌接続を行った」などとは、普通書きませんね。しかし、それは間違いなく、その日の工程で起きていたことなのです。
そこで、以前から引っかかっていたprocess performanceという言葉が、私には少しエンボスのように浮き上がって見えてきました。process capabilityは、この工程が要求された品質の製品を継続的に作る能力を持っているかを見るものです。一方、process performanceという言葉からは、「その能力を持つはずの工程が、実際の商業生産の中で、今どのように動いているのか」を見る、もう少し広い姿が見えてきたのです。
もちろん、FDAがprocess capabilityとprocess performanceを、このように明確に定義して区別していると言い切るつもりはありません。Process Validation Guidanceでも、process capabilityには定義がありますが、process performanceについて同じ形で定義をしているわけではありません。あくまで、私がStage 3を読みながら考えてきた違いです。
しかし、そう考えると、なぜFDAがStage 3で製造職員からのfeedbackをわざわざ書いているのか、少し分かるような気がします。現場では、
「最近、この操作が少しやりにくい」
「この部品になってから位置合わせに時間がかかる」
「このところ、この工程では手直しが増えている」
「手順どおりにやると、かえって作業しにくい」
ということがあるかもしれません。
まだ逸脱ではありません。OOSでもありません。苦情も出ていません。管理図にも出てきません。しかし、毎日そこで働いている人は、何かが少しずつ変わっていることに気づいている。こういう情報は、どこへ行くのでしょうか。
ここで、この会社のWarning Letterに書かれていた品質部門への要求が、Stage 3の記述と重なって見えてきました。FDAはこの会社に対して、無菌工程とその支援作業について、品質部門による品質監督の頻度と深さを評価するよう求めています。その例として挙げているのが、"audits, ad hoc, daily interactions"です。監査。必要に応じた確認。そして、日常的なやり取り。ここが面白いと思ったのです。
品質部門が工程を知る方法というと、私たちはつい記録の照査を考えがちです。バッチ記録を見る。逸脱を見る。OOSを見る。環境モニタリングを見る。収率を見る。もちろん、全部必要です。しかし、これは基本的に「記録された情報」です。
では、まだ逸脱になっていない変化はどうするのでしょうか。誰も記録していない「やりにくさ」はどうするのでしょうか。製造職員だけが感じている違和感は、誰が受け止めるのでしょうか。そう考えると、品質部門が現場へ行く意味は、単に「手順を守っているかを監視する」ことだけではないように思うのです。Process performanceの情報を集めに行く。そんな役割もあるのではないでしょうか。
FDAのProcess Validation Guidanceには、品質部門が製造職員と定期的に会って工程データや好ましくない変動を話し合うことが書かれています。そして、この会社のWarning Letterでは、品質部門によるdaily interactionsを含めた監督のあり方を見直すよう求めています。もちろん、この二つを直接結びつけて、「この会社はStage 3に違反した」と読むことはできません。しかし、FDAが工程の本当の姿を知るために、データだけでなく現場とのコミュニケーションを重視していることは、共通しているように思います。
品質部門には独立性が必要です。しかし、製造部門から独立することと、製造現場から離れることは同じではありません。
むしろ独立した目を持って現場へ行き、製造職員と話す。
「最近、何か変わったことはありませんか」
「やりにくくなった作業はありませんか」
「前と少し違うと思うことはありませんか」
そんな会話の中に、まだ数値になっていないprocess performanceが隠れているのかもしれません。
そして、そこで得た情報を「そうですか」と聞くだけで終わらせず、必要ならデータを確認し、逸脱、CAPA、変更管理などに反映していって、初めて品質システムの情報になるのだと思います。
私は以前から、Continued Process Verificationを工程データの収集、統計処理、トレンド評価だけで捉えると、何か足りないような気がしていました。また、process capabilityとprocess performanceという二つの言葉の使い分けにも、ずっと少し引っかかるものがありました。
今回、Stage 3を読み直し、このWarning Letterと重ねて考えてみたことで、その解釈の糸口が少し見えてきた気がします。
というか、長いこと目の前にかかっていた霧が、少し晴れたような気持ちです。
数値を見る。記録を見る。現場を見る。そして、そこで働く人の話を聞く。その全部を使って、工程が今も管理状態にあることを確認し続ける。そう考えると、Continued Process Verificationは、私たちが思っているよりずっと「現場に近い活動」なのかもしれません。
今回、この会社のWarning Letterを3回も取り上げてしまいました。しかし、同じWarning Letterでも、別のガイダンスを読んでから戻ってくると、違うところが気になります。GMPは、こういうところが面白くもあり、困ったところでもありますね。一つ調べると、また一つ気になることが出てきます。煩わしいけれど、新たな発見があり、それがまた喜びになっています。
今回、私の机の前に置かれた問いがこれです。
「品質部門は、管理された数値の外側で起きている工程性能を、どのように把握するのか」
記録を照査するだけでは、そこにあるものすべては見えないのかもしれません。

