「ラインクリアランス完了記録と現場の乖離」— FDA査察から見た目のつけどころとチェックポイント

2023年9月5日、FDAは米国の医薬品再包装業者(Safecor Health LLC)にWarning Letter(CMS# 657886)を発出しました。この会社は錠剤・カプセル等の再包装を主な事業としています。Warning Letter の原文はFDAのウェブサイト(https://www.fda.gov/inspections-compliance-enforcement-and-criminal-investigations/warning-letters/safecor-health-llc-657886-09052023)で公開されています。ブラウザの翻訳機能を使うことで日本語で読むことができます。

今回取り上げる指摘事項は、ラインクリアランスです(21 CFR 211.130(e))。査察官がブリスター(PTP)包装機でチュアブルアスピリン錠の包装作業を確認したところ、機械の上や下に別製品のカプセルや錠剤が散在していました。しかし、そのバッチのラインクリアランス記録には「実施済み」と記載されていたのです。さらに、小児用アセトアミノフェンの一部記入済みで破られた製造記録が発見されました。包装エリアの隣の机には未整理の記録用紙が積み重なっていました。この会社は、過去にも製品の取り違え・混同に関する苦情や自主回収の履歴がありました。

GMP省令でも、PIC/S GMPでも、ラインクリアランスは製品切り替え時の基本的な管理要件です。ただ現場ではどうでしょうか。
「手順書通りにやった」
「記録に残した」
「サインもある」
そこで完結して、確認行為が形骸化していないでしょうか。

この査察でFDAが問題にしたのは、「記録があるのに現場はそうなっていなかった」という現実です。確認行為を証明するはずの記録が、実態を反映していないということは、記録の問題ではなく、確認そのものの「構造的な欠陥」です。

ここで、査察官の思考プロセスを推論してみましょう。
「機械の周囲に別製品の錠剤・カプセルがある」
→「ラインクリアランスの記録は完了している」
→「記録と現場が一致していない」
→「そもそも何を確認してサインしたのか」
→「品質部門(QU)はこの乖離を把握していたか」
→「苦情・自主回収の履歴がある→繰り返し起きている問題では?」

このWarning Letterで、FDAがもう一つ重く見ているのは、21 CFR 211.22に基づく品質部門の責任です。FDAは、品質部門が紙の記録を適切に管理していなかったことも指摘しています。机の上に積み重ねてありましたね。ちょっとヒヤッとしませんか。

記録の形式は整っていても、それが現場の実態を担保していなければ、品質システムとして機能しているとは言えません。「記録を残す仕組み」と「実態を確認する仕組み」が乖離したまま運用され続けるという構造が、繰り返し製品混入を招いた「根っこ」と考えられます。運用でカバーしようとしても、確認行為の設計そのものに問題があれば、形を変えて同じことが繰り返されるわけです。

「ラインクリアランスはきちんとやっている」それが現場の声だと思います。ただ今回のケースが問いかけているのは、その「きちんと」が「記録の完了」を意味しているのか、それとも「現場の実態」を意味しているのか、ではないでしょうか。その問を解くのは…品質部門なのです。

FDAは、このWarning Letterの4番目の指摘事項に、その答えを載せています。もうご存知ですよね。

対象:Warning Letter CMS# 657886(Safecor Health LLC, 2023年9月5日)21 CFR 211.130(e), 211.22
対象URL:https://www.fda.gov/inspections-compliance-enforcement-and-criminal-investigations/warning-letters/safecor-health-llc-657886-09052023

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