教育訓練担当者養成講座6:教育訓練の実効性
教育訓練担当者養成講座4で最後に書いたことを、もう一度思い返す意味でコピー&ペーストします。
[問]どのような評価により改善を図ればよいか。
[答]職員が担当業務や職責を理解し、遂行する能力を有しているか、現在の教育訓練システムが有効なものとなっているかを評価し、教育訓練資料の更新の必要性や実施頻度、手法等について改善措置を検討すること。(事例集GMP19-6)
GMP事例集は具体的に答えてくれています。以下の5点が「改善するときが来た」かどうかを判断する基準になります。
①訓練を受けた職員の業務遂行能力
②教育訓練の有効性
③実用的で最新の訓練資料
④教育訓練の頻度の適切性
⑤教育訓練の実施方法の適切性
評価対象が①②、改善対象が③④⑤になります。
①は教育訓練を受けた職員の適格性を評価することになります。初めての教育訓練なら適格性評価、定期的に実施する評価なら再適格性評価です。業務遂行能力があるかどうかは、実際に業務を観察して評価することになります。教育訓練後のアンケートで「よく分かった(A)」という自己評価は、職員の感想文です。実際には、トレーナーまたは直属の管理者がその職員の業務の実施状況を観察して「SOPに記載された業務を、一人で再現性をもって実行できたことを観察した(A)」みたいな評価になるでしょう。
②は、教育訓練の実効性のことですね。教育訓練がうまく機能しているかどうかを評価することになります。端的に①の結果を評価することが現実的です。その時に注意しなければならないのは、実効性のある教育訓練を実施しても、業務遂行能力が基準を満たさない職員も出てくることです。例えば、非力な職員が人力で重量物を迅速に移動させる業務は向かないでしょう。有効な教育訓練を実施したからといって、全ての職員が必ずしも適格性を有することになるとは限りません。ここがポイントです。
③~⑤は、教育訓練プログラムがGMP要件を満たすための変数です。一般的には、これらの変数を調整することでプログラムの有効性を維持することができます。ですから、教育訓練プログラムの実効性に不安が生じたら、③~⑤を検討しなさいと言っているわけです。
そのためには、GMPの教育訓練プログラムを年1回見直すことです。
④過去1年間に管轄当局が発出した新たなガイダンスや業界への期待と査察の焦点などを整理して、教育訓練教材を更新しましょう。PIC/S GMPは毎年のようにどこかが改定されています。ICH のドキュメントも増えたり変化したりしています。オレンジレターは当局が注目している、すなわちこの領域の見直しと改善を業界に期待しているところです。これらの情報を継続的に収集し、自社に必要な内容を教育訓練プログラムに組み込んで改訂しましょう。
⑤頻度は、GMP教育訓練の場合、一般的には年1回の継続的訓練が業界標準です。また、新規に配属された職員には、初回の教育訓練をタイムリーに、すなわちGMP業務遂行の任に着く前に実施する必要があります。SOPの訓練や専門的な業務に関する職務機能および手法は、その職員の職務記述書に基づいて実施計画を策定することになるでしょう。
⑥実施方法も効果的な方法を検討する必要があります。以前にブログで「VAKモデル」を紹介しました。座学やSOPベーストレーニング(SOPを学んで実際にhands-onすること)だけでなく、グループディスカッション、ディベート、ロールプレイ、コンテストなどによるアクティブラーニングも検討するとよいでしょう。
日常の業務でそんな余裕はないかもしれませんね。しかし、PIC/S GMPが言っているように、医薬品の品質の要は「人」です。教育訓練をおろそかにしても、日常業務は回っていくかもしれません。やがて問題が起きるリスクを抱えながらのビジネスプロセスは、綱渡りではないですか。
教育訓練の実効性の評価について、①の注意点を踏まえたスキームを作ってみました。後日、今日のテーマでアップする予定です。