GMPを勉強しよう-改正GMP省令

パブリックコメントについての考え方を示した「…省令(案)に対して寄せられたご意見について」を読むと、「保存品」についてはPIC/S GMP Annex 19の記載事項と調和を図っているようです。「PIC/Sの GMPガイドライン アネックス19に…と規定されており、本省令における『保存品』の定義は、これに倣って規定しています」と言っています。

 

ちなみに、1つだけ「意見」と「意見に対する当省の考え方」を引用しておきます。

【意見】「参考品」は、包装前の出荷試験に供される検体(小分け製品)を指し、第6項で定義されている「保存品」は、改正前の「参考品」を指すものと理解して良いか?

【考え方】改正後の第2条第6項は保存品の定義を規定するものであって、これは改正前の参考品を指すものでありません。改正前は参考品の定義を規定していませんでしたが、今般の一部改正に当たってPIC/SのGMPガイドライン アネックス19に “Reference sample: a sample of starting material, pakaging material or finished product which is stored for the purpose of being analised should the need arise during the shelflife of the batch concerned." とあるのに倣って定義を整備することとしたものであり、改正後の第2条第5項に規定しています。

なお、製品の参考品を保管するに当たっては、その製造所から出荷した製品と同じ包装形態とすることが基本です。

(引用:医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令の一部を改正する省令(案)に対して寄せられた御意見について)

 

ここからわかるものをリストしてみました。保存品は:

  1. PIC/Sの GMPガイドライン アネックス19の記載事項と調和している。すなわち、アネックス19の意図と矛盾しないことを述べている。
  2. 旧版の「参考品」を指すものではない。旧版に参考品の定義はないが、「将来品質を評価する可能性に備えるための分析試験用のサンプル」である。(事例:GMP11-48の[答]参照):キーワードは「品質」らしい。
  3. 改正GMP省令の定義では、「検体」である。同一性を確認するために使用されるものである。「品質」「分析試験」の言葉は用いられていない。(検体とサンプルの違いを確認する必要がありそう。検体=検査、分析の対象として取り上げる物体;サンプル=標本、見本、例など)

その他、いろいろありますが、ここは論争する場所ではなく、当局の意図を汲み取るために考えを巡らす場所です。結論(意図)は解りましたので、適当に切り上げます。

 

色々考えられますね。自分で得た情報は、解釈で指摘を受けたときのために、サポート用の知識として持っておきましょう。

長~い話を先回りすると、アネックス19の意図と矛盾しないのですから、これを解釈すれば明確になります。

さあ、改正GMP省令の「保存品」の定義に関する意図が解りましたね。そこで、早速アネックスの記述を見てみましょう。

PIC/S GMPAnnex 19には、保存品と矛盾しない” Retention sample”の詳しい説明があります。

 

“Retention sample: a sample of a fully packaged unit from a batch of finished product. It is stored for〈 identification 〉purposes. For example, 〈 presentation, packaging, labelling, patient information leaflet, batch number, expiry date 〉 should the need arise during the shelf life of the batch concerned. There may be exceptional circumstances where this requirement can be met without retention of duplicate samples e.g. where small amounts of a batch are packaged for different markets or in the production of very expensive medicinal products.”

 

英語大変ですか。Google翻訳があるじゃないですか。えい!

 

「保持サンプル:完成品のバッチから完全にパッケージ化されたユニットのサンプル。 〔 識別 〕のために保存されます。 たとえば、〔プレゼンテーション、パッケージング、ラベリング、患者情報リーフレット、バッチ番号、有効期限〕は、関連するバッチの保管期間中に必要が生じた場合に使用します。 重複するサンプルを保持せずにこの要件を満たすことができる例外的な状況が存在する可能性があります。 少量のバッチがさまざまな市場向けに、または非常に高価な医薬品の製造でパッケージ化されている場合。」

 

意味や意図を解釈するだけなら、きれいな日本語にしなくてもいいですよね。ただし、必要なところは誤解しないように、文法や語義を間違えないように慎重になってください。

 

この文章で私達が必要なのは、次の2つだけです。

  1. “identification”

2.” presentation, packaging, labelling, patient information leaflet, batch number, expiry date”

 

PIC/S GMP アネックス19は、これが市場に出た製品と同じであることを証明するために保存しておく、包装済みの製品だと言っています。ユニットと言っていますので、個装箱に入った製品をイメージすればいいですね。

日本語にはしづらいですが、” fully packaged”と言っていますね。これも解釈をはっきりさせていおいたほうが良さそうですね。一旦開けた場合、もう一度確認のために使用できるのか。真正性をどのように証明したらいいのか(参考品がありますけどね)。

それから、”a”なんですが、「これは”the”じゃないよ」と言っているのか、「1個」あればいいと言っているのか、この文章だけではわかりませんね。疑問点を残さないように他の記述も読みましょう。

PIC/S GMPには「流通している製品」という記載はないですね。省令の「流通している製品」とは何を指すのかな。これも考えなければ、と思ってしまいますね。

バッチのシェルフライフの間に”identification”の必要が生じるって、どんな事象かな(”the shelf life of the batch concerned”)。

定義に出てくる”shelf life”と”expiry date”の違いって何かな。

 

いろいろ疑問が湧いてきますね。教育訓練をする立場の人は、明確にしておかないと、質問されたときにドキッとしますね。くわばらくわばら。

クリティカルシンキングすると、明らかにしておきたいことがわんさか出てきますが、はじめの目的は達成できましたね。

 

「保存品」は「外観、包装、表示、添付文書、バッチ番号、有効期間」などが、流通製品と同じであることを確認するために保管する検体だそうです。あるいは、検査するために保管する見本と読み替えてもいいでしょう。「このバッチに使用した包材等を改めて確認するために保存しておく見本」であって、最終製品をとってくれば見本が揃うわけですね。最終製品なので、より厳密に保管している参考品で代用しても良いですよということになります。「保存品」の守備範囲は包装資材や表示・記載内容のようで、製品の品質はどうやら「参考品」の仕事のようですね。

For finished products, in many instances the reference and retention samples will be presented identically, i.e. as fully packaged units. In such circumstances, reference and retention samples may be regarded as interchangeable.

 

「そんなこたぁはなっから知ってるよ。連載してまで話すこたぁねぇってんだよ。」と、今回東側のべらんめい調で皆さんの代弁をしました…

 

教育訓練の場面では、できればワークショップを行って、できなければ順序立てて説明して、自然に気づいてもらうといいですね。

用語の定義はおろそかにできませんが、先を急ぎます。こんな調子で、あとの定義も解釈して、後輩に話せるようにしておきましょう。

先を 急がないと… … …