EMAがリコール。バルサルタン原薬から発がん性物質を検出、FDA-483は…

EMAが発ガン性物質を含むAPIのリコールを行いました。これは、中国で製造された高血圧症治療薬API(一般名Valsartan)です。このAPIから発がん性の不純物(N-nitrosodimethylamine)が検出されたとのことです。この不純物は、工程の変更を行った後で現れたとのことです。(参考:Pharmaceutical Manufacturing,"EMA recalls drugs made with Chinese API due to cancer fears"Jul 06,2018,https://www.pharmamanufacturing.com/industrynews/ema-recalls-drugs-made-with-chinese-apis-due-to-cancer-fears/)

私も血圧を調整する薬を3種類服用していますので、人ごとではないのですが、興味はどうしても「なぜ?」の方になってしまいます。

この会社(Zhejiang Huahai Pharmaceuticals, Linhai, China)を、GMP遵守の切り口で調べてみました。

過去10年間のFDA査察の結果を調べてみると、この会社は何度も査察を受けています。その結果はほとんど"NAI"、即ち指摘事項無しで通過していて、とても良い会社のように思われます。

しかし、最近2回ほどFDA-483 をもらっています。2016年と2017年にFDA-483が発行されています。

2016年の指摘事項は:

1.データインテグリティの問題で、実施と同時に記録をしていませんでした。具体的にはキャップのトルクの測定で、バッチ終了後に全ての値を記録していました。

2.試験室管理で、試験法の移転の調査のためにデータを収集していました。そこで「プレ」分析がありましたが、それは調査のなかに含まれていませんでした。

以上の2項目です。

2017年の指摘事項は3項目です。

1.品質管理機器は、分析試験の完全性を保証するための適切な管理をしていなかった。さらに、分析試験の異常は調査されていなかった。

1)APIの試験で、規格内の良い結果を得るために、試験結果が繰り返されていました。SOPには、複数の分析用サンプルは、結果の違いが○%を超えないことを求めています。そのSOPを、OOSやOOTが出たときに、調査をせずにAPIの分析を繰り返すのに使用していました。

2)分析試験中に発生する不純物は、記録/定量に一貫性がありませんでした。
特定できないピークを示したものは、未知の「ゴーストピーク」と説明していました。また、明らかに大きなピークも調査していませんでした。

(..)φ;この項目が、不適切な不純物試験を指摘しています。

2.施設や装置は、医薬品の品質特性を保証するためのメンテナンスがされていなかった。

a)ガスケットは擦り切れていて、ネジが緩んでいたようです。伏せ字が多く明確に解釈できませんが、色が抜けていたり、いろいろ問題があったようです。この装置を使って製造したものが米国に出荷されています。この装置は、洗浄済みの状態表示がされていました。

(..)φ;汚染原因になりますね。

事例はa)~f)まであり、サビ、微粒子、ペンキ、剥離、キズ、白い粒子などが指摘されています。これに対して、5件の苦情もありました。

3.OOSの結果を無効にしていますが、これは科学的に正当化されていませんでした。

以下、3項目の事例が記述されています(省略)。

(..)φ;今回のEMAの回収は、工程の変更管理がうまく働いていなかったことによります。しかし、最近のFDAのFDA-483を読むとその原因が見えてきます。たとえ変更のバリデーションを行っていても、期待する結果を得るための分析をしていれば、全てが筋書き通りに運び、今回のようなことが発生することになります。

詳しい内容を知りませんので、あくまで個人的な想像でしかありません。事実は他にあるかもしれません。

想像ではありますが、データインテグリティの問題が、いかに深刻な結果を招くかを物語っている例ではないでしょうか。供給業者監査でデータインテグリティの問題の調査が望まれます。