ワークショップの課題を作ろう(2)
ケーススタディ
2025年8月、ある医薬品製造会社(A社)の品質部門は、腹膜透析液バッグに関するリーク(液漏れ)苦情が増加する傾向を把握した。データを確認すると、複数のバッチにまたがって同様の事象が繰り返し報告されていることが分かった。
A社は正式な調査を開始した。調査はその後も継続され、最終的に35件の苦情、156バッグが調査対象となった。
製造記録、苦情品および製造工程を調査した結果、リークはバッグへの印字(マーキング)工程によって生じた微細な穴に起因すると判断された。すなわち、微細な穴が生じたバッグが市場に出荷されていた可能性があることになる。
担当者Bさんは、この事象についてリスク管理マトリクスに基づく評価を行った。
同マトリクスには、腹膜透析液バッグのリークに関連して想定される危害として「腹膜炎」が記載されており、その場合に推奨される重大性レベルは「高(最高)」とされていた。腹膜炎は、腹膜透析患者にとって入院などにつながる可能性のある重大な合併症である。
(挿入部)
しかし、担当者が提出した評価書では、危害を「腹膜炎」ではなく「物的損害」とし、重大性レベルを「低(最低)」と評価していた。
その根拠として、次の4点が記録されていた。
① 現時点で、本件リークに関連する腹膜炎症例の報告はない
② 製品ラベルには、使用前にリークの有無を確認するよう記載されている
③ 患者または医療従事者が、治療開始前にリークを発見できると考えられる
④ 漏れた液は外装袋(オーバーポーチ)にたまるため、使用時に異常に気づく可能性が高い
この評価書が品質保証責任者のもとに届けられた。
責任者は内容を読みながら、担当者の評価をそのまま承認してよいのか、それとも見直しや追加確認を求めるべきなのか、検討することになった。
※①〜④の部分を、実際のリスク評価書や報告用紙を模した様式に書き込んで提示すると、さらにケーススタディらしくなります。
いかがでしょうか。
同じ与件でもストーリー化することで、少し複雑な現場の状況を疑似体験できるようになります。
さらに、(挿入部)に実際の事例には記載されていない描写を加えることで、参加者に考えてもらう範囲を広げることもできます。
たとえば、こんな描写を加えてみます。
「担当者は人的損害だけでなく、物的損害の可能性にも目を向けた。リスク管理マトリクスを確認すると、出荷前に発見された包装破損については、重大性レベルが『低(最低)』とされていた。また、今回の事象について担当者は、発生可能性、検出可能性ともに低いと判断していた。」
こうした情報を加えると、「なぜ担当者は『低』を選んだのか」という判断の過程まで考えることができます。
もちろん、この部分は実際のWarning Letterに記載された事実ではありません。教育目的で加えた創作であることが分かるようにしておく必要があります。
このようにして、実際の事例を土台にしながら、自社で考えてもらいたいテーマに合わせて、独自のケーススタディへ発展させていくことができます。
【(3)に続く】

