ワークショップの課題を作ろう 第1回:課題を作る前の設計思想

■「ワークショップの課題を作ろう」
前回のブログでは、Fresenius Medical CareのWarning Letterを取り上げて、「そのリスクの評価は正しいか」ということを考えてみました。
そして最後に、こんな宿題を残しました。
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腹膜透析液バッグに微小な穴があったとき、
「想定する危害は何か」
「重大性をどう評価するか」
「患者が使用前に気づくことを、リスクを下げる根拠としてよいか」
を考えてみましょう。
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というものです。

さらに、「次は、この事例を使って、もう少し本格的なワークショップ形式で考えてみたいと思います」
と書いてしまいました。書いてしまった以上、今回は作ってみることにします(笑)。

ただ、その前に……。せっかくですから、Freseniusのワークショップをいきなり作るのではなく、そもそもワークショップの課題は、どうやって作ればよいのかを考えてみたいと思います。

私はGMPの教育訓練では、講義を聞くだけに終わらせず、自分で考え、他の人の考えを聞き、もう一度考え直す機会がとても大切だと思っています。そのために便利なのが、事例を使ったワークショップです。

このブログは長文なので、以下の3回に分けて連載します。
ワークショップの課題を作ろう 第1回:課題を作る前の設計思想
ワークショップの課題を作ろう 第2回:実際の運営方法
ワークショップの課題を作ろう 第3回:ワークシートと教育としての意味
今回は、その第1回目です。

■まず、事例を探す
ワークショップの課題づくりに欠かせないのが「事例」です。できれば、本当に起きた事例を使うのがよいと思います。Warning Letter、FDA-483、回収事例、逸脱、OOS、苦情、ヒューマンエラーなど、GMPの世界には教材になりそうな事例がたくさんあります。

実際の事例には、机の上で考えた問題にはないものがあります。人は合理的に行動するとは限りませんし、情報は最初から全部そろっているわけでもありません。後から考えれば「なぜこんな判断をしたのだろう」と思うことでも、その時点ではそれなりの理由があったりします。そこが面白いところでもあるんですね。

もっとも、実際の事例をそのまま使えばよいわけでもありません。事実関係が複雑すぎれば、参加者は枝葉末節の情報まで読まなければならず、それだけで疲れてしまいます。逆に、情報を削りすぎれば、「そんなの当たり前でしょう」という問題になりかねません。

そこで、元の事例を一度ばらしてみることをお勧めします。

■(私は)こんな順番で考えます
ワークショップを作るときの手順を、無理やり公式にしてしまうと、私は次のように考えています。
あくまで個人的な考えです。すなわち;

1.事例を選ぶ
本当に起きた事例から、「何を考えてもらいたいのか」が見えるものを選ぶことにします。

2.問題の焦点を一つに絞る
一つのWarning Letterには、逸脱、CAPA、データインテグリティ、品質監督など、たくさんの論点が含まれています。しかし、全部を問題にすると焦点がぼやけます。「今回はリスク評価」、「今回は根本原因」というように、目的に合わせて絞り込みます。

3.原因と結果を展開する
「何が起きたのか」、「なぜ起きたのか」、「その判断によって何が起きたのか」を矢印で並べ、因果関係を展開してみます。ここで因果関係が整理できない事例は、ワークショップにしても参加者が迷子になりやすいので、除外するとよいと思います。

4.参加者に何を気づいてほしいかを決める
「正しい答え」を覚えてほしいのか、議論の中で「気づいて」ほしいのか、情報を「整理する力」をつけてほしいのかによって、設問の作り方が変わります。

5.必要な事実だけを「与件」にする
判断に必要な情報は入れます。しかし、答えそのものが分かる情報は少し隠しておきます。この加減が、たぶん一番難しいところです。

6.設問は具体的に、考える方向へ導く
「何が問題ですか」だけでは、議論が広がりすぎます。「最も重大な問題は何か」、「追加で確認したい情報は何か」、「あなたがQAならどう判断するか」など、考える方向を少しだけ示します。

7.最後に、講評で着地点を決める
ワークショップの終わりに、参加者に何を持ち帰ってほしいのかを、あらかじめ決めておきます。そこから逆算すると、与件や設問も作りやすくなります。

こうして書くと、整然として見栄えがいいですね。しかし実際には、いざ課題を作成しようとなると、私も行ったり来たりしながらなんです。だから、基本はおさえて、あとは試行錯誤というか、経験で身につくスキルというか、+αの要素をコツコツ積み上げていくことになります。

教育訓練担当者さん、始めなければスキルは身につきませんので、まず始めてみましょう。

■先に「目的」を決める
同じ事例でも、目的によって問題はまったく変わります。たとえば、前回のブログの「バッグのリーク」を事例に、少し考えてみます。
「リスクアセスメントの知識を確認する」ことが目的なら、「Severityとは何か」、「Probabilityとは何か」という問題でもよいでしょう。

しかし、「思い込みがリスクアセスメントに入り込むことに気づいてもらう」ことが目的なら、「患者がリークを発見できるからリスクは低い」という情報をあえて与件に入れて、それを参加者が疑えるかを見る問題にした方が面白くなります。

さらに、「意思決定をする力」を目的にするなら、「あなたが品質部門の責任者なら、出荷継続、出荷停止、回収のどれを提案するか。その理由を一文でまとめてください」という設問にすることもできます。

知識を問う問題と、気づきを促す問題は、似ているようで違います。私はワークショップでは、後者を少し多くしたいと思っています。

難易度を決める
問題には難易度があります。
私は厳密な基準ではありませんが、以下のように決めています。
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★ 知識を確認する
★★ 事実から問題点を見つける
★★★ 複数の情報を整理して判断する
★★★★ 正解が一つではなく、優先順位を議論する
★★★★★ 経営判断や品質文化まで含めて考える
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これくらいの感覚で考えています。
新人教育で★★★★★ばかり出しても、ワークショップの意義を見いだしにくくなります。逆に、経験豊富なQAの方々に、「バッグに穴が開いていました。問題ですか?」と聞いても、それはワークショップというよりクイズになってしまいます。

対象参加者によっては、良問が愚問と化してしまいます。参加者の経験と、使える時間に合わせることが大切です。

【第1回終了】