EU GMPだけでは足りない ― FDA査察から見た「無菌製造管理」

今回紹介するのは、2026年4月10日付でFDAがFareva Amboise(フランス)に発出したWarning Letterです。発行元はCVM(Center for Veterinary Medicine)とCDER(Center for Drug Evaluation and Research)の連名で、査察対象は動物用無菌製剤でした。米国では、動物用医薬品の製剤にも21 CFR Part 211(CGMP)が適用されます。

原文は以下のFDAウェブサイトで公開されています。ブラウザの翻訳機能を利用すれば、日本語でも読むことができます。

https://www.fda.gov/inspections-compliance-enforcement-and-criminal-investigations/warning-letters/fareva-amboise-723502-04102026

Farevaはフランスを拠点とする世界有数のCMO(受託製造機関)グループであり、EU GMPに基づく豊富な製造実績を有しています。そのような企業に対してFDAがWarning Letterを発出したことは、「EU GMPに適合しているのだから、FDA査察でも問題はないだろう」という考え方に警鐘を鳴らす事例といえるでしょう。

今回のWarning Letterでは、無菌製造の根幹に関わる4つの領域が指摘されています。

1.スモークスタディの不備

Grade A区域で実施したスモークスタディに重大な欠陥が認められました。本来、一方向流であるべき気流が、査察官の確認した映像では停滞し、上昇流や乱流が発生していました。

さらに、充てん・打栓工程中の動的条件でのスモークスタディも実施されていませんでした。

2.無菌操作設計の不備

査察官は実際の充てん工程で、複数の不適切な無菌操作を確認しました。

例えば、

– 空ボトルをGrade AからGrade Bへ持ち出し、消毒することなく再びGrade Aへ戻して充てんを継続していた
– Grade B区域で取り外した機器の保護カバーを、そのままGrade Aへ持ち込んでいた
– チューブ接続時に、作業者の腕がGrade A内の滅菌済み部品の真上を横切っていた

さらに、Grade A区域で作業した作業者の前腕からCorynebacterium tuberculostearicumが検出されたにもかかわらず、Grade Bの基準で評価し、「基準を満たしている」と判断して製品を出荷していました。

3.メディアフィルの不備

メディアフィルでは、実際の充てん工程で発生していた介入回数を十分に再現しておらず、ワーストケースを反映したシミュレーションになっていませんでした。

また、

– バイアルを廃棄する判断基準が文書化されていない
– 廃棄したバイアルの本数や内容が記録されていない

ため、メディアフィルと実生産を比較・評価できない状態でした。

4.データインテグリティの欠陥

Grade A区域のパーティクルカウンターにも重大な問題がありました。

– 装置の日時設定、警報値、設定値を誰でも変更できる状態だった
– Grade Aの基準値を超えた初回測定結果が記録されず、再測定結果のみがバッチ記録に残されていた
– 校正時に電子データが削除されたにもかかわらず、バックアップが存在していなかった

つまり、不都合なデータは「なかったこと」にされ、都合の良いデータだけが正式な記録として残る運用になっていたのです。

査察終了からWarning Letter発出まで約7か月、公表まで約10か月を要しています。この間、会社は複数回にわたりFDAへ改善内容を提出したものと思われますが、FDAは最終的にその内容を「不十分」と判断しました。

FDA-483に対して回答書を提出すれば査察は終わる…そのような認識がいかに危険であるかを示す事例でもあります。

このWarning Letterが示しているメッセージは明確です。

EU GMPへの適合は、FDA CGMPへの適合を保証するものではありません。

EU GMPとFDA CGMPは基本的な考え方を共有しています。しかし、FDAは無菌製造において、

– 動的条件でのスモークスタディ
– 実際の作業を反映したメディアフィル
– パーティクルカウンターを含めた電子データのインテグリティ

について、「本当に日常の製造を再現し、保証できているか」という視点から厳しく確認しています。

FDAが見ているのは、手順書だけではありません。

スモークスタディの映像、作業者の動線、介入回数、電子記録の監査証跡… これらが互いに矛盾なく一致して初めて、「品質システムは機能している」と判断します。

コンプライアンスは文書の中に存在するものではありません。現場で行われている日常の作業そのものに現れます。

だから最後に、一つだけ現場の皆さんに問い掛けたいと思います。

スモークスタディを撮影したときの作業者は、日常の製造でも、本当にその映像どおりの動作とスピードで作業しているでしょうか。

無菌製造は設備で保証されるものではありません。日常の行動で保証されるものです。GMPは、手順書を作ることではなく、その手順どおりに行動する組織をつくることです。