「QUの実効性とデータインテグリティ」 − FDA査察から見た目のつけどころとチェックポイント

今回取り上げる内容は、OTC医薬品メーカーGC America, Inc. (US)に対して、FDAが2026年5月14日に発行したWarning Letterの内容です。全文は以下のURLで確認できます。原文は英語ですが、ブラウザの翻訳機能で日本語でも読めます。
https://www.fda.gov/inspections-compliance-enforcement-and-criminal-investigations/warning-letters/gc-america-inc-727602-05142026

このWarning Letterで注目して見たのは、3番目の指摘項目—21 CFR 211.22(d)に基づく品質部門の監督機能(QU oversight)の欠如—です。査察官が確認した事実は、大きく2つあります。1つは電子記録管理の問題、もう1つは年次製品照査(APR)の未実施です。

電子記録については、分析機器に接続されたノートパソコンにパスワードが書かれたシールが貼付されていました。一昔前は、よく見かけましたね。パスワードを誰でも見ることができたということです。しかもそのパソコンは、シャットダウンのたびに試験データが自動的に削除される設定になっていました。結果として、品質部門(QU)がそのデータをレビューしたという記録は存在しません。監査証跡もなく、電子記録の保管要件を定めたSOPもなかったと記録されています(21 CFR 211.68(b))。年次製品照査(APR)については、前回査察(2018年)以来、一度も実施されていませんでした。実に7年間にわたって実施していませんでした(21 CFR 211.180(e))。

GMP省令やPIC/S GMPでも、品質部門または品質保証の監督機能やAPRに相当する製品品質照査(PQR)の実施が求められていますよね。また、PIC/S GMP Annex 11は電子記録システムにおけるアクセス制御と監査証跡の確保を要件として定めています。すなわち、世界共通の要件と言ってもよいと思います。

FDAの観点から特に重視されるのは「記録が改ざんや消去から保護されているか」、そして「QUが実際にレビューできる環境にあるか」という点です。パスワードがシールで貼られ、データがシャットダウンで消える環境でQUがレビューを行うことは、構造的に成立しません。すなわち、論理的な破綻が見られます。FDAが21 CFR 211.68(b)を併せて引用しているのは、「データインテグリティの問題はQUの機能不全と表裏一体である」という認識を示しているからでしょう。

ここで、査察官の思考プロセスを推論してみました。
パスワードを書いたシールが貼られている →
アクセス管理が機能していない →
誰がいつ操作したか追跡できない →
データはシャットダウンで消える →
QUがレビューしたという証拠がない →
QU監督は機能しているか?→
QUの監督機能を反映しているAPRには何が示されているか? →
APRは2018年以来、一度も実施されていない →
QUの監督機能は、組織設計として十分に存在していない →
これは手続きの遅れではなく、品質システムの構造的欠落である

このような一連の流れを見ていくと、担当者の怠慢や一時的な見落としではないことがわかります。パスワード管理の甘さ、データが消える設定、APRの7年間にわたる不実施—それぞれ見えているものは、根が同じです。すなわち、QUが監督すべき機能が、実態として組織に根付いていなかったということです。査察官はひとつの証拠から別の証拠へと手繰り寄せるように、その構造を明らかにしていきます。

「運用でカバーする」という意識を持っていると、ときにはこのような状態を見失うことがあります。そして、いつの間にか問題が繰り返される構造に慣れてしまう、または見て見ぬふりをするようになるかもしれません。

FDAはQUの機能を「役割を持った部門の存在」ではなく「実際に機能しているシステム」として捉えます。これは、PIC/S GMPのChapter 1も同じ考えです。手順書があること、APRの実施を約束すること… それだけでは不十分で、「実施した証拠」と「その結果が次のアクションにつながっているか」を査察で観察します。

さて、私たちのところでは、電子記録の保管とアクセス管理が文書化され、確実に実施されているでしょうか。そして直近の製品品質照査は、製品品質を維持・改善するための照査として機能しているでしょうか。

「やっている」と「機能している」の間には、思いのほか大きな距離があるかもしれません。

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