グローバル企業の品質戦略
もう十数年前になります。米国で、グローバル戦略展開の魁(さきがけ)となったメガファーマの講演を聴きました。グローバルな生産販売拠点を展開している企業にとって、各事業所、各部門の関係を良好かつ機能的に維持することは大きな課題です。
人や時代が変われば、企業の経営戦略も変わっていくものですが、当時この企業がグローバル化を進めていった戦略を知ることは、今もって有意義だと思います。今後グローバル化を目指す会社や、グローバルシステムに欠陥が見えはじめた会社が「基本に返る」という意味で、紹介したいと思います。
長い話を要約すれば、品質戦略のポイントは次の二つです。
1.どの部門とどのような関係を結ぶか;
2.どのようなシステムで品質に関する責任を果たすか
前者は、会社の全機能が参加することですが、とりわけマーケティング部門、サプライ・チェーン部門が深く関与することが重要です。
講演の後で「製造部門が品質のメンタリティーを持つにはどのようにしたらよいか」という質問がありました。その問いに「ミッション(使命)を共有すること」と「品質ベースでプロモートする(推進)こと」であると答えていました。
後者について、簡単に説明します。品質部門の中の「品質レビュー・チーム」が工場(site)、国(area)、本部(global)の3階層で構成されています。レビューチームが行ったレビューの情報は、全ての階層に報告されるシステムです。本部のレビューチームはリコメンデーションを発信しますが、最終決定は現場にゆだねられています。その理由は、現場が一番よく知っているからです。
ここが肝です。
このシステムが機能するための成功要因は、
1.協同でプロセスを開発すること;
2.どこの国でも通用する品質標準を共有すること;
3.チェンジ・マネジメントを世界的に行うこと;
4.隅々にまで情報が行き渡ること
であるとして、この4点を挙げていました。
ここで断っておかなければなりません。この会社は、巨大なグローバル企業です。各階層の品質レビューチームが、十分に訓練されていて、GMPを熟知しており、レビュー能力を備えていることが前提になっています。
上記のようなシステムの構築は、言葉にすれば簡単に感じます。しかし、法律の違う国の生産拠点を統括するのですから、最適なシステムを構築する作業は大変だったと思います。法律家やサプライチェーンの専門家、ビジネスコンサルタントなど、各方面の多くの専門家をアウトソーシングし、時間をかけて構築したものと思われます。
また、テクニカルな部門では、特に品質部門が中心になって、グローバルスタンダードを作成していったことでしょう。3極をカバーして、どの国のGMPもクリアし、かつ社内唯一のGMPを構築するという作業は、国際間の取引が生ずる企業にとっては必須のことのように思われます。
グローバルスタンダードは、各国のGMPの矛盾を解消しなければならないので、少しだけテクニックが必要です。
この会社の例を真似ることは簡単かもしれません。いわゆる「ハウツウもの」として取り入れることはできます。しかし、多くの企業がその時々に流行したマネジメントスタイルを採用して、うまくいかずに終わっています。
まずはじめに「ハウツウ」を取り入れて成功裏に運営・定着させる基礎力をつけておく必要を感じます。