「QAの責任をどこまで書いているか」―FDA査察から見た目のつけどころとチェックポイント
今回取り上げるのは、FDAが2026年8月27日付でJabil Inc.(米国)に対して発出したWarning Letterです。査察対象となったのは、この会社の傘下にある医薬品製造施設 Pharmaceutics International, Inc.で、無菌注射剤を受託製造する製造所です。製品名の多くは伏せ字になっています。
原文は以下のURLに掲載されています。また、ブラウザの翻訳機能を使用すれば日本語で読むことができます。
https://www.fda.gov/inspections-compliance-enforcement-and-criminal-investigations/warning-letters/jabil-inc-731037-08272026
今回注目したいのは、違反事項2の21 CFR 211.22(d)です。
“The responsibilities and procedures applicable to the quality control unit shall be in writing; such written procedures shall be followed.”
品質部門(QU)の責任と適用される手順を文書化し、その手順に従うことを求めた条文です。
ところで、この会社には品質部門のSOPがなかったのでしょうか。そう単純な話ではなさそうです。
この会社のある無菌充てんバッチの記録には、介入が12回と記録されていましたが、他の記録からは約200回の介入が行われていたことが、今回のFDA査察で分かりました。落下したバイアルの除去などの重要な介入も記録されていませんでした。また、消毒剤の有効性試験では、施設で実際に検出された環境分離菌を十分に評価しておらず、新しい製造工程を導入した後に必要なプロセスバリデーションも実施していませんでした。FDAは、これらを品質部門による監督の不足として、§211.22(d)でまとめています。
ここで気になったのが、FDAがWarning Letterへの回答として何を要求しているかです。
FDAは単に「品質部門のSOPを改訂しなさい」とは要求していません。品質部門が有効に機能するための権限と資源が与えられているかを包括的に評価し、手順が十分に頑健で適切か、業務全体を品質部門がどのように監督するか、出荷判定前にバッチ記録と関連情報を完全に、かつ最終的にレビューできるか、さらに調査を監督・承認できるかを回答するように求めています。
ここに、211.22(d)の「責任と手順を文書化する」という言葉の意義が見えるような気がします。
GMP省令には、21 CFR 211.22(d)のように「品質部門の責任と手順を文書化すること」と一文で明記した条項はありません。ただし、製造・品質関連業務を担う責任者の配置、製造所で必要となる各種手順書の作成、そして品質部門が確認・承認・報告などを行うことが、それぞれの条項で規定されています。
PIC/S GMPもFDAとまったく同じ書き方ではありませんが、責任ある職位の具体的な職務を文書化し、その責任を果たすための十分な権限を与えること、さらに役割・責任・権限を明確にして組織全体で実行することを求めています。責任に「抜け」や説明できない重複があってはならないとも記載されています。
ですから、日本でも「SOPはある」「職務分掌はある」というだけで安心せず、その文書を併せて見たときに、品質部門の「誰が、何を、どこまで見るのか」が本当に明確になっているかを確認してみる必要がありそうです。
そこで、査察官がどのように感じ、考えて、指摘に至ったのか、目のつけどころとチェックポイントを私なりに推論してみました。
無菌充てんのバッチ記録を見る
(介入の記録がある。実際の製造は、本当にこれだけの介入なのだろうか?)
↓
介入に関する他の記録と照合する
(12回と書いてあるのに、実際には約200回行われている。では、誰がすべての介入を記録させ、確認する責任を持っているのか?)
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品質部門のレビュー方法を確認する
(これほど記録が欠落したバッチ記録が品質部門のレビューを通っている。レビュー手順は何を確認することになっているのか?)
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ほかの品質関連業務にも目を向ける
(消毒剤の有効性評価やプロセスバリデーションにも不足がある。個々の担当者の見落としではなく、品質部門が重要な業務を監督する範囲そのものが曖昧なのではないだろうか?)
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品質部門の責任、手順、権限を確認する
(誰が、何を、いつ、どこまで確認し、問題があれば止めるのか。それは文書で明確になっていて、実際に実行できる権限と人員が配分されているか?)
↓
品質システム全体を評価する
(手順書一つの不足ではなく、品質部門が製造所全体を監督する仕組みが十分に機能していないのではないか?)
この一連の流れから見ると、問題の本質は「責任を書いた文書がない」というところだけではなく、品質部門の責任と権限が、日々の製造活動の中まで具体的に落とし込まれていなかったことにあると思われます。
私たちの会社にも、品質部門の職務分掌やSOPは当然あるでしょう。でも、「QAが確認する」と書いてあるとき、その「確認する」は何を見るのでしょうか。「監督する」と書いてあれば、どこへ行き、何を見て、何があれば注意するのでしょうか。
文書に「QAの責任」と書いてあることと、QAが実際にその責任を果たせる仕組みになっていることとは、似ているようですがちょっと違うのかもしれません。
一つの記録漏れを見つけたとき、「記入してください」で終わらず、「これは誰が見つける仕組みだったのだろう」と考えてみる。それが、品質部門の責任と手順をもう一度見直す、よいきっかけになるのではないでしょうか。
知って終わらず、仕組みで確かめる!

