「汚れの程度」で見ない―FDA査察から見た目のつけどころとチェックポイント

2026年8月18日、FDAはShoolin Pharma Chem LLP(インド)にWarning Letter(320-26-116)を発出しました。この施設は、APIを非専用設備で製造しています。原文は、以下のFDAのウェブサイトで公開されています。ブラウザの翻訳機能を利用することで日本語で読むことができます。

https://www.fda.gov/inspections-compliance-enforcement-and-criminal-investigations/warning-letters/shoolin-pharma-chem-llp-734100-08182026

このWarning Letterには、写真があります。正直、かなりひどく見えます。しかし、「うちはここまで汚くない」で終わると、少しもったいない気がします。FDAがCGMP違反の1番目で問題にしたのは、非専用設備の製品接触部付近に残留物や錆があり、洗浄・保守手順もなく、洗浄確認も行われていなかったことでした。さらに、ワーストケースとなる残留物やダーティホールドタイムの評価も不足していました。

すなわち、見た目もあるものの、捉える本質は、交叉汚染を防止する仕組みが構築されているか、運用されているか、そして品質部門などによって監視・監督されているか、ではないかと思います。今回はそこを見てほしいと思います。

このWarning LetterはAPI CGMPの指摘ですので、21 CFR 211の特定の条項を引用してはいません。しかし、ICH Q7もPIC/S GMP Part IIも、非専用設備の交叉汚染防止、残留物の判定基準とその根拠、洗浄のバリデーションを求めています。GMP省令も基本的な考え方は同じです。ですので、これはFDAの話というより、私たちの身近な問題として見た方がよさそうに思います。

ここで、査察官の思考プロセスを私なりに推論してみました。

汚れ・錆を見る
(これは何の残留物だろう。なぜこの状態のまま製造が続けられているのだろう。製品への汚染は大丈夫だろうか)

非専用設備で何を製造しているか確認する
(複数のAPIを同じ設備で製造している。前製品の残留物が次製品へ持ち越される可能性は、どのように管理しているのだろう)

洗浄手順を見る
(誰が実施しても必要な洗浄状態が得られる手順になっているだろうか。それを決めた科学的な根拠はあるのだろうか)

洗浄確認データを求める
(「洗浄した」という記録だけでなく、本当に許容できるレベルまで残留物が除去されたことを確認しているのだろうか)

ワーストケースやダーティホールドタイムの設定を確認する
(最も落ちにくい製品や最も厳しい条件でも洗浄できることを、どう保証しているのだろうか。製造後に長く放置された場合も同じだろうか)

それらの評価や仕組みが十分ではない
(では、この施設は何を根拠に「交叉汚染は防止できている」と判断していたのだろうか)

交叉汚染を防ぐ仕組みそのものを評価する
(これは一つの設備や一人の作業者の問題なのだろうか。それとも、この状態を見つけ、評価し、是正する品質システムや経営監督が機能していないのではないだろうか)

こんなふうに、査察官の疑問は「汚れている」という目の前の事実から始まり、洗浄手順、科学的根拠、確認データへと進み、最後には「なぜ、この状態が許され続けたのか」という構造的な問題にたどり着いたのではないでしょうか。

写真の施設と私たちの施設では、もちろん程度の差があります。しかし、「多少の汚れは運用でカバーできる」「これまで問題が起きていない」と考える構造が、もしも残っていれば、根の部分には似たところがあるかもしれません。ここがポイントです。ひどい汚れは見られない、しかしどこかで残留物が検出されたという時に、この思考プロセスで現場を眺めてみる価値があるのではないでしょうか。

これはAPIだけの話でもないと思います。製剤でも程度の差こそあれ、設備や施設の状態を「運用で何とかする」という発想が続けば、同じように問題が再発する構造をつくりかねません。

設備の汚れを見たとき、私たちは「清掃してください」で終わっていないでしょうか。その汚れを許してきた意思決定や、再発する構造まで見に行けているでしょうか。

目の前の汚れを直すだけで終わらず、その汚れを許した仕組みまで見に行くことが、今回のWarning Letterからの一つの教訓かもしれません。