「非無菌製剤の微生物規格」− FDA査察から見た目のつけどころとチェックポイント

今回取り上げるのは、米国ペンシルベニア州の製造業者、Medical Products Laboratories, Inc.に対して2026年4月9日付で発出されたFDA Warning Letter(Warning Letter 320-26-61)です。
https://www.fda.gov/inspections-compliance-enforcement-and-criminal-investigations/warning-letters/medical-products-laboratories-inc-721916-04092026
英語の原文ですが、ブラウザの翻訳機能でおおよその内容はご確認いただけます。

この会社は、Sodium Sulfacetamide配合外用剤、Hydroquinone製剤、Salicylic Acid液など、皮膚科領域の非無菌外用製剤を製造する受託製造業者です。FDA査察(2025年9〜10月)で4つのCGMP違反が確認されましたが、今回は21 CFR 211.113(a)の指摘事項に焦点を当てます。

査察では、複数の非無菌製剤バッチで好気性生菌数(TAMC)と酵母・カビ数(TYMC)がいずれも「TNTC(too numerous to count=計数不能)」という結果が確認されました。問題はそれだけではありません。この会社は、汚染した充填済みバッチに対してバリデートされていない事後処理を実施し、菌数の低減を図ったうえで再サンプリングを行い、その結果をもって合格と判断し出荷していました。

また、CAPAとして処方中のある成分の配合量を増やしていましたが、FDAは「それは根本的な汚染防止の代替にはならない」と明確に否定しています。さらに、製造用水システムの菌数が管理限度を超えていたにもかかわらず、それを汚染原因として適切に調査していなかった点も指摘されました。

日本では、GMP省令や薬機法に「非無菌製剤の生菌数限度を製品標準書に設定しなければならない」という明示的な条文はありません。製造販売承認書に微生物限度が記載されていれば実施義務がありますが、外用製剤ではその記載がないケースも多く、日本薬局方の製剤通則でもクリーム剤やローション剤など多くの剤形に一律の微生物限度は定められていません。

ICH Q6Aは製品特性や投与経路に応じて必要な場合に設定することを示唆していますが、強制力はなく、実務上は規格を設けないまま運用されている製品も存在します。2021年のGMP省令改正でICH Q10の品質システム概念が取り入れられ、リスクに基づく品質管理の方向性は強まっていますが、非無菌製剤の微生物規格の設定が義務化されたわけではありません。

「承認書に書いていないから不要」という解釈が現場にある背景には、こうした制度的な空白があると考えられます。

一方FDAでは、§211.113(a)において「非無菌製剤においても、好ましくない微生物を防止するための適切な手順書を確立し、これに従うこと」を直接要求しています。この「防止のための設計」が重要であり、TAMCやTYMCの規格設定は、その設計を試験によって可視化する手段のひとつと位置づけられます。

【Preambleでは、好ましくない微生物には生菌数限度を超えた菌数も含まれるとの見解が示されています】

規格がなければ「問題が発生した」という認識自体が生まれにくく、汚染が見えないまま流通してしまう可能性があります。さらにUSP <1111>では投与経路ごとに「問題となる微生物(objectionable microorganisms)」が定義されており、FDAはその観点から製品特性に応じた規格設計を期待しています。

【査察官の思考プロセスの推論】
→ 複数バッチでTAMC・TYMCがTNTCという深刻な汚染を確認 → なぜ出荷できたのか? → バリデートされていない処理で再サンプリングし、合格判定していた → 製造用水システムの菌数が管理限度外であるにもかかわらず、調査されていない → CAPAが「配合成分の増量」にとどまり、製造工程で汚染を防ぐ設計になっていない → これは個別バッチの問題ではなく、「汚染を防ぐ品質システムそのものの設計不良」

【問題点】
この事例の本質は、「問題が起きてから対処する」という発想が、§211.113(a)の求める「防止設計(prevention-based approach)」と根本的に相容れない点にあります。

再サンプリングによる合格判定や、CAPAとしての成分増量は、汚染の原因を製造工程に遡って特定・是正することなく、表面的な数値を合格ラインに戻しているにすぎません。製造用水システムという「汚染を繰り返し供給しうる構造」が放置されていた点も重大です。

規格を持たない製品、バリデートされていない事後処理、根本原因が見えない調査――これらが重なると、同じ問題は繰り返されます。

そして私たちの現場にも、「規格がない=問題を検知する手段がない」という状況が存在している可能性があります。

自社の非無菌製剤について、承認書や日本薬局方の要件を満たしているかという視点に加え、製品の投与経路や使用対象患者のリスクを踏まえたとき、TAMCやTYMCを規格として設定する意義があるのかどうか、改めて考える余地があるかもしれません。

「義務ではないから設定しない」と「リスク評価の結果として設定しない」は、GMPの考え方において本質的に異なる判断です。この事例は、その違いを静かに問いかけているように感じます。

【参考】FDA Warning Letter: Medical Products Laboratories, Inc. — Warning Letter 320-26-61 (April 9, 2026) / 21 CFR 211.113(a) / USP <61> <62> <1111> / ICH Q6A / GMP省令(令和3年改正)

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