GMPを勉強しよう(深堀りGMP 13)第15条逸脱の管理:肉付け中
2.逸脱の記録に必要な最低限の情報はなんだろう。GMP省令等(逐条解説と事例集を含む)に記入情報の具体的な要件は出てきません。
逸脱の発見と同時的(ALCOAのcontemporanous)にその場でロット製造記録に記入する情報と、品質保証部門に提出する逸脱報告書に記入する情報があります。
前者は発見時の状況と対応したことを簡潔に記入し、発見日時と発見者の署名(氏名またはイニシャル)をします。大切なことは、同時的に記入することと、発見時刻を記入しておくことです。発見時刻は後で思い出すという記憶力を使わず、その場で記入しておくとよいでしょう。その後の調査で必要な重要情報になります。また、記録の信頼性確保の観点から言えば、発生の都度記入すべきであると言えますね。
逸脱報告への記入は、製造記録に記入した情報+影響調査の結果を記入することになります。製造記録の情報の中には、製品名、ロット番号、発見者、発見時刻、発見場所(区域と工程のステップ)、発見時の状況、対応した行動が入ります。
影響調査の内容は、GMP事例集(GMP15-2)の[答]で説明してくれています。
1)影響調査は製品品質への影響を特定することが目的です。
2)その際に、影響の重大性と影響がおよぶ「品目」とその数量を明確にします。
3)この「品目」は、過去に製造したロットや他品目の製造ロットにわたる可能性があります。
4)影響の可能性があるロットは、是正措置または出荷や使用を停止するなどの必要な措置をとります。
5)製品品質への影響を正確に把握するには、逸脱の原因の特定が必要です。
これが、影響調査の全貌です。その中で、現場の影響調査は2)が実施されます。できれば3)も行いたいですが、これは逸脱の性質と現場が有する情報に依存します。例えば、製造現場で発見された現象は、現場が知らない原料の問題に起因するかもしれません。この場合は、現場単独で3)を特定できないこともあります。そのため、5)の記述があるわけです。
3)の一部、4)、5)は、品質保証部門との調整が必要になるということですね。すなわち、現場の影響調査の結果は限られた暫定的なものであることを前提に、逸脱の処理を進めることになります。
ここで余談ですが、オレンジレターNo.5(PMDAの発行するGMP指摘事例速報「不適切な記録の作成」)の確認された事例に「担当者は、洗浄工程の開始にあたり、積算流量計の値の確認や製造記録書への記録を失念。」と書かれています。これは、「値の確認」を失念した「手順からの逸脱」です。これに気がついた時点で、逸脱の発生を「製造記録書に記録」しなければなりません。「積算流量計の値の確認を忘れた。製造管理責任者と逸脱管理責任者に連絡した。イニシャルと日付、記入時の製造ステップ。」程度の情報を記録しておけば、トレーサビリティがとれます。そして、その後の責任者の逸脱の影響調査と指示に従い是正措置を行って、これらの記録を作成することになるでしょう。しかし、「製造記録書への記録」も失念したというダブルの逸脱になっています。ここから、改ざんが始まっています。
そして、製造管理責任者、逸脱管理責任者、製造部門の製造管理の確認、工場品質保証の製造部門の確認の確認、製販品質保証の製造所の製造記録に関する照査が不適切に行われ、製品は出荷されていくのでしょう。