「見えなかった微生物」―FDA査察から見た「目のつけどころとチェックポイント」
今回取り上げるのは、前回のブログでも取り上げたDabur India Limited(インド)に対するWarning Letterです。この会社は、米国向けOTC医薬品を製造する製造所です。なお、この事例では査察時のFDA-483も公開されていますので、今回はWarning LetterとFDA-483の両方を読み比べながら考えてみたいと思います。
Warning Letter:
https://www.fda.gov/inspections-compliance-enforcement-and-criminal-investigations/warning-letters/dabur-india-limited-728828-07242026
FDA-483:
https://www.fda.gov/drugs/cder-foia-electronic-reading-room/dabur-india-limited-01162026
今回注目したいのは、21 CFR 211.194(a)「試験室記録」です。この条文は、試験結果そのものよりも、「その試験結果が本当に実施されたことを示す、完全な記録」を求めています。
Warning Letterでは、FDAは試験記録の信頼性に重大な疑義があると判断しました。しかし、FDA-483を見ると、その背景がもう少し具体的に見えてきます。
査察官は、微生物試験の平板を実際に確認したところ、試験記録には「<10」と記録されているにもかかわらず、菌が数え切れない(TNTC:Too Numerous To Count)平板を確認しました。また、試験に使用した培地の所在が分からないものや、サンプル受付記録(sample login records)が見当たらないもの、不自然に規則的なコロニー数が繰り返されているものも確認されています。
こうした査察時の観察結果を見ていると、Warning Letterで「データインテグリティ上の重大な問題」と評価された理由も、少し見えてくるような気がします。
試験記録は品質保証の根拠となる原記録です。これは日本のGMP省令でも同じ考えだと思います。PIC/S GMPでも、試験結果だけではなく、その結果を裏付ける記録全体の完全性が求められています。「規格に適合しているから問題ない」という考えはちょっと危険ですね。改めて注意したいところです。
そこで、査察官がどのようなプロセスでこの指摘に至ったのか、目のつけどころとチェックポイントを私なりに推論してみました。
試験結果は長期間すべて「異常なし」
↓
実際の培地を確認すると結果と一致しない
↓
サンプル受付記録や培地の管理状況を確認する
↓
原記録やサンプルのトレーサビリティが追えない
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試験結果が長期間ほぼすべて「<10」で推移していることや、データの並び方にも不自然さが見つかる(FDA査察では、このような規則性を「パターン」と見ているようです)
↓
査察官が「本当に測定した結果なのだろうか」と疑問を持つ
↓
試験結果そのものではなく、試験室記録全体の信頼性に疑義を持つ
↓
21 CFR 211.194(a)違反と判断する
この一連の流れを見ていると、査察官は「菌がいた」ことを問題にしたのではなく、「菌数データが信頼できるか」を見ていたように思われます。微生物試験は、目に見えない微生物を数字で表す仕事です。その数字が信用できなくなれば、製品品質を保証する土台そのものが揺らいでしまいます。
私はこのWarning Letterを読みながら、「試験をしたか」ではなく、「試験を証明できるか」が問われているのだと感じました。微生物試験では、培地、サンプル、原記録、試験結果が一本の線でつながることで初めて製品の品質を保証することになります。
試験室では、試験結果だけではなく、その結果に至るまでの証拠も、第三者がたどれる状態になっているでしょうか。それが、FDAのいうデータインテグリティの本質なのかもしれません。

